コズミックブレイク2
リリレイン・ショートストーリー

月明かりのない闇夜の中を、1人のメイドが駆けている。胸には大事そうに書類を抱えながら、屋敷の裏手から壁に沿ってひたすら表門を目指していた。
庭に出た矢先に、メイドの周囲がパッと明るくなる。先回りしていた警備員がサーチライトで照らしてきたのだ。あまりの眩しさに足を止めたメイドに、この屋敷の主人が怒声を浴びせる。

「リリレイン! 貴様、その書類を持ってどこに行くつもりだ!? 貧乏で身寄りがないという貴様を雇ってやった恩を忘れたのか!?」

しかしメイド――リリレインと呼ばれた少女は、その顔に不敵な笑みを浮かべると、開き直ったかのように堂々と胸を張った。

「ええ、社長には感謝しておりますよ? だからこそ、社長のお部屋を一生懸命お掃除させていただいたのですから。それで出てきたゴミを処分しようとして、何が問題なのですか?」

「き、貴様! まさか始めから、それが目的だったのか!?」

クスッと笑って、リリレインは手にした書類を軽く振ってみせる。

「それにしても、社長は本当に人気者ですね。誰も彼も、このゴミを高値で欲しがるんですよ? 社長がご贔屓になさっていた、(裏)取引の顧客情報を」

言うが早いか、リリレインは着ていたメイド服をバサッと脱ぎ捨てた。
服の下から現れたのは、ブレードのついた風変わりな形状のスカートだ。リリレインはそれをひるがえすと、装着していたブースターを点火して飛び上がる。

「逃がすな! 追え! あれを取り返せ!」

社長が唾を飛ばす勢いで警備員に命じれば、彼らはすぐにリリレインを追うべくブースターを吹かす。しかし――

「プレゼントはいただきましたので、そろそろお暇いたしますね」

リリレインが手にしていたスイッチを押せば、庭園のプールから黒い影が飛び出した。盛大な水飛沫を周囲に散らし、ダークブルーのシップがライトの光を反射して煌めきながらリリレインのもとへ近づいていく。

「まっ、待て! こっちもシップを出すんだ! 宇宙に逃げられたらおしまいだ!」

慌てた社長が命令を変更したことで、警備員たちはとまどいながらも屋敷の傍に停めてあるシップへと方向転換した。
そのとき、シップめがけて4つの円盤が飛来する。
円盤は縦横無尽に動き回り、屋敷のシップに接触するたびに深い傷を刻んでいく。最後にだめ押しとばかりにコアを切り裂けば、シップは閃光とともに派手な爆発を上げた。
目標を破壊した円盤は、旋回しながらリリレインのもとへ戻ってきた。そうして元通りスカートにドッキングしたところで、リリレインはシップの内部へ体を滑らせるとにこやかに手を振った。

「それではみなさん、ごきげんよう」

飛び立ったダークブルーのシップは、夜の闇に紛れてあっという間に見えなくなった。



宇宙空間に出たところで、リリレインはシップを自動航行モードに切り替えた。そうしてシートに体を預けると、手に入れた書類を一枚ずつ確認していく。

「ひい、ふう、みい……これだけあれば、交渉次第で数百万は堅いはず。あとは……あっ!」

不意に手を滑らせてしまい、書類がバラバラとシップの床に散らばった。

「いけない! 破けでもしたら値打ちが下がってしまうわ!」

慌てて拾いにいくリリレインだったが、手元の紙に書かれた内容に思わず手を止めて見入ってしまう。それは他の書類とは異なり、宣伝用のチラシだった。

「コスモリーグ、参加者大募集?」

思わず手に取る。コスモリーグという名前には聞き覚えはあったが、それが社長の顧客情報に紛れていたのが彼女には不思議だったのだ。
理由がわかれば交渉材料に使えるかもしれない。そう思ったリリレインは、チラシの内容に目を通した。そうして最後の一文に「成績に応じて、願いを叶える奇跡のカケラ『コスモピース』がもらえます!」と書かれているのを見て、リリレインは瞳を丸くした。

「コスモピース? 願いを叶える?」

顎に指を添えて思案する。これが本当ならば、この『コスモピース』というものはかなりの値打ちになるはずだ。それどころか、自身の望みを叶えることも容易いはず。小悪党を狙ってちまちまと金稼ぎをするよりも、ずっと簡単で手っ取り早く思えた。

「……これは、利用しない手はないですね」

口元が笑みを形作る。立ち上がったリリレインは、足元の書類には目もくれずにシートへ座ると操縦桿を握った。自動航行モードが解除され、リリレインは一路居住先のコロニーを目指す。
とにかく、まずは参加に必要な頭数を揃えることだ。登録さえ済めば、あとはどうあっても負ける気がしない。そう思うほどに、リリレインは自身の実力と、トランス・スカートの威力を信じていた。

「あの子たちのためにも、絶対に手に入れてみせます」

こうしてリリレインもまた、譲れない決意を胸にコスモリーグを目指すこととなった。
この先に、これまで経験したことのない激闘が待ち受けているなど。彼女はまだ想像すらしていなかった。