コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 最終話 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

「う……うぅむ……」

ロボアイが光を取り戻したところで、ゼロの口から呟きが漏れた。掘り起こされ、太陽の光を浴びたことでエネルギーが復活したようだ。師匠が目を覚ましたことで、それまで心配そうに見つめていたクリムとルナがようやく安堵の表情を浮かべる。

「師匠!」

「ゼロさん! 良かったです!」

「……どうやら私は、君たちに助けられたようだな。心配させてすまなかった」

砂で汚れた弟子の姿に2人の苦労を垣間見たのか、体を起こしたゼロは沈んだ声で呟いた。それに対して、2人は首を横に振って否定する。

「私たちこそ、ゼロさんが守ってくださったからこうして無事でいられたんです。それに、ゼロさんを助けられたのは私たちだけの力じゃありません」

ゼロは首を傾げていたが、クリムの視線を追ったことでフィオナの存在に気が付いたらしい。敵チームであるはずのフィオナが一緒にいる理由を図りかねているようで、ロボアイがゆっくりと明滅してる。
それに気付いたルナが、ゼロに現在の状況を説明した。

「フィオナが、師匠の上に積み重なっていた瓦礫を吹き飛ばしてくれました。おかげで時間切れになる前に、師匠を掘り起こすことができたんです」

「……そうか」

ゼロはそれだけ呟いて無言になる。ばつが悪くなったフィオナは思わず顔を背けてしまうが、己のやったことは取り消せないというのも理解しているためすぐに謝罪の言葉を口にした。

「……あなたには悪いことをしたわ。爆破作戦そのものは仲間が勝手にやったことだけど、あなたたちをあの場所へおびき出したのは私。どんな責めでも、負う覚悟はできている」

それを聞いたゼロが立ち上がり、フィオナに向かってゆっくりと歩いてくる。その勿体付けた動きを見たクリムが前に進み出る。

「ゼロさん、フィオナちゃんは何も知らなかったんです。だから……」

「クリム」

フィオナを庇おうとしたクリムをルナが止める。ゼロはそのままフィオナの前に立ち、水色のロボアイでジッとフィオナを見つめた。
次は罵倒か。もしくは粛清か。
何にせよ、甘んじて受け入れるしかない。覚悟を決めたそのとき、ゼロは持ち上げた右手をフィオナに差し出してきた。

「何があったのかは、あの子たちを見れば大体わかる。……どうやら、無事に仲直りはできたようだな」

フィオナはわけがわからずに困惑したが、ゼロはロボアイに優しい光を湛えながら穏やかな声で言葉を続けた。

「これからも、あの子たちと仲良くしてやってくれ」

それを聞いたことで、フィオナは彼の意志を理解し、そして驚いた。自分を危険な目に遭わせた張本人だというのに、ゼロはフィオナを許した。クリムやルナと同じように、敵であるはずの自分を信用してくれたのだ。
揃いも揃ってお人好しにも程があるとフィオナは思ったが、なぜだか悪い気はしなかった。むしろ心にのしかかっていたものが取り除かれたかのような、不思議な開放感がある。それらは間違いなく、目の前にいる3人からもたらされたものだった。
迷った末に、フィオナが右手を差し出そうとした丁度そのとき、時間切れを表すアラームがフィールドに鳴り響いた。

『バトル終了。勝者、シャインスターズ』

AIのアナウンスがかかったかと思えば、今度は上空から不自然な影が差した。見上げてみると、1隻のシップが上空から降下してくるところだった。シップの側面にはコスモリーグのマークが描かれており、中から複数のロボやヒュムの男が降りてきてクリムたちを取り囲む。

「我々は、コスモリーグ直属の治安維持部隊です」

リーダー格であろうヒュムの男が1歩前に進み出た。

「あなた方のバトルで、登録されている武器のものとは思えないほど強力な爆破振動を感知しました。どういうことか、包み隠さず説明していただきましょうか」

「それは……」

言い淀んだルナだけでなく、他の2人も揃ってフィオナを見る。ここでクリムたちが告発してしまったら、フィオナまでもが罪を問われる可能性があるのだ。
3人が何も言い出せないでいると、フィオナが自ら前に進み出た。

「フィオナちゃん!」

クリムが止めようとするが、フィオナは首を振ると、真剣な表情で顔を上げる。

「実は――」

「フィオナ!」

言いかけたところで、今度はナイトメアードの声がした。振り返って見てみれば、4体が離れたところからフィオナを睨みつけている。余計なことは言うなとでも言いたげな様子だったが、フィオナにはためらう理由などなかった。彼らを裏切った瞬間から、フィオナはこうすると決めていたのだ。

「あなたたちが感知した爆発は、シャドウファングが申請した武器以外の爆発物を持ち込んだことが原因」

「フィオナ、てめえ!」

ゴライアスが怒鳴るが、フィオナは鋭い視線で睨みつけるとそのまま言葉を続ける。

「彼らは、ジョイントに偽装した小型爆弾を装着してここまで持ち込んだ。それを今回のバトルで使用し、あろうことかシャインスターズを生き埋めにすることを目論んだ。幸いにも全員無事だけど、これは明らかにリーガー規定に違反した行為。……私は、厳正な審判と公平な裁きを求めるわ」

リーダー格の男が表情を険しくした。

「その証言を裏付ける証拠は?」

「ゲイズ――そこにいるゲイザー族のボディに、小型カメラが内蔵されている」

フィオナに指摘されたことで、ゲイズのロボアイが激しく明滅する。

「爆弾の設置も含めた一部始終が、音声とともに記録されているはず。それにもしかしたら、彼らはまだ未使用の爆弾を装着したままかもしれない。それらがあれば、証拠としては十分なはずよ」

「うわ……うわぁ!」

ゲイズが逃走を図ろうとするが、すぐに周囲を武装したロボに取り囲まれる。他のメンバーも同様で、皆一様に両手を挙げて降参の意志を示している。バトルが終わってプロテクト粒子のコーティングも解除されている今、下手に抵抗をすれば己の身が危ないと理解したのだろう。

「証拠はもちろん、すべて提出していただきます。チームシャドウファングはこのまま取り調べのためにセントラルロビーへ連行し、シップやホームなども徹底的に調べさせていただきます」

ナイトメアードたちがゾロゾロと運営のシップに乗船させられていく。最後に残っているフィオナにも、男は小銃を向けながら声をかけた。

「あなたもです。自ら告発したとはいえ、チームが違反した以上は真偽を問わなければなりませんからね」

「わかっている。運営の判断に従うわ」

フィオナは取り乱すことなく歩き出す。そうしてシップに乗り込もうとしたところで、背後から「フィオナちゃん!」と呼ぶ声がした。
振り向けば、クリムを先頭に3人が駆け寄ってきた。クリムはフィオナの手を取ると、瞳をまっすぐに見つめながら口を開く。

「全部終わったら、私たちのホームに来てください! 今度こそ、一緒にご飯を食べましょう! ご馳走を作って待っていますから!」

彼女の顔は真剣そのものだ。その肩にポンと手を置きながら、ルナもフィオナに話しかけてくる。

「こう見えても、クリムは料理が上手なの。食べないと損するわよ?」

その言葉に、フィオナは少しだけ微笑んだ。

「知ってる。……全部済んだら、必ず行くわ」

「本当ですか?」

疑われたが、不快感はなかった。フィオナは頷くと、彼女からそっと手を離す。

「ええ。……後でね」

そう言い残すと、フィオナは今度こそシップに乗り込んだ。
離陸したシップ。小窓から見えるクリムたちの姿がどんどん遠ざかっていくが、3人はいつまで経ってもその場から動こうとはしなかった。

「彼女たちは別のチームだろう? それにしては、随分と親しそうだな。君のことを、本当に心配しているようだった」

隣に座るリーダー格の男が話しかけてくる。フィオナは窓の外に視線を向けたまま、少しだけ微笑んだ。

「ええ。あの子たちは、私の……」

一旦言葉を区切り、一呼吸置いてからその言葉を紡ぐ。

「私の、友達だから」

それはまるで魔法の言葉だ。たった一言なのに、胸の奥がじんわりと温かくなる。
宇宙空間に出てからも、フィオナはずっと窓の外を見つめ続けていた。


ホームに帰った3人はフィオナが来ると信じて歓迎の準備をしたが、その日は結局来ることはなかった。
翌日になり、クリムは料理を新しく作り直した。ゼロはリビングや玄関を掃除し、ルナはというと、クリムが作った料理を盛りつける係を買って出た。
料理が苦手なルナだが、不思議なことにそれだけはできるらしい。掃除や整理整頓が得意なことが関係しているのだろうか、盛りつけに関してはクリムよりも上手だった。

「うわぁ! 綺麗に整っていて素敵です!」

「盛りつけるくらいならいいんだけど、作ろうとするとダメなのよね」

渋い顔をするルナに笑いかけたクリムだが、その表情が不意に曇った。

「フィオナちゃん、大丈夫でしょうか? 夕べも来ませんでしたし、何かしらの責任を負わされているんでしょうか?」

「それは……きっと大丈夫よ! 運営だって馬鹿じゃないんだから、ちゃんと調べればあの子が無実だってわかるはずよ!」

ルナが元気付けるように強い口調で告げたそのとき、来客を知らせるチャイムがホームに鳴り響いた。2人は顔を見合わせて、同時に笑顔を浮かべる。

「もしかして……」

「きっとフィオナちゃんです!」

廊下を慌ただしく駆けていき、2人は喜び勇みながら玄関のドアを開けた。

「――やっぱり、フィオナちゃんです!」

「良かった! 大丈夫だったのね!」

玄関前にフィオナが佇んでいるのを見て喜ぶ2人だったが、肝心のフィオナはなぜか浮かない顔をしている。

「……フィオナちゃん? どうかしたんですか?」

心配になったクリムが尋ねれば、フィオナは重い口をそっと開いて呟いた。

「……あなたたちに、別れの挨拶をしに来たの」

その言葉はクリムとルナだけでなく、ようやく玄関にやってきたゼロも驚かした。

「お別れって、どういうことですか?」

「もしかして、何かの罪を問われたの? そうだとしたら濡れ衣だわ! 私たちが証言をしてあげるから、今すぐ運営のところへ行きましょう!」

ルナが駆けだそうとしたところで、フィオナはそれを否定するように首を横に振った。

「違う。小型カメラの音声記録から私の無実が証明されたから、私自身には何の罰も下されていない。……だけど、私はもうリーグバトルに参加できない」

「だから、それはどういうことなの? 無実なのにバトルに出られないなんておかしいじゃない」

ルナが問い詰めると、フィオナは詳しく事情を説明した。

「他のメンバーは、不正行為を行ったことが確認されて1年間のリーグ参加禁止措置が取られたの。それが原因でシャドウファングは解散。私は告発したことが雇い主に知られて、傭兵契約が解除されてしまったわ。……私には、他のチームに入れてもらってまでコスモリーグに残る理由がない。チームに入らないのなら、私はリーガー規定に従ってここを離れないといけない。だから……もうゆっくりしている時間はないし、ご飯を食べることはできないわ」

そう言ってうつむいたフィオナに2つの手が差し伸べられる。顔を上げれば、クリムとルナが微笑んでいた。

「それならいっそのこと、うちのチームに入っちゃいなさいよ」

「そうですよ! フィオナちゃんが入ってくれれば百人力です! ゼロさんもそう思いますよね?」

クリムが話を振れば、ゼロもロボアイに穏やかな色を湛えながら頷く。

「そうだな。我々のチームにはバスターがいないし、ただでさえ人数が少なくて困っていたのだ。君さえ良ければ大歓迎だ」

フィオナにとってこの勧誘はまったくの予想外だったらしく、瞳を困惑げに揺らしながらうつむいてしまう。

「でも……私にはもう、ここで戦う理由がない。昔の記憶がないから、自分が何者なのか……何のために戦って、今日まで生きてきたのか、何もわからないの。ここに留まってコスモピースを得たところで、何を願えばいいのかもわからない……」

「ああもうっ、黙って聞いていればウジウジしてばっかり! いい加減にしなさいよ!」

ルナの声に顔を上げれば、彼女は頭を掻きむしりながら深いため息を吐き出した。

「戦う理由や叶えたい願いなんて、じっくり探していればそのうち見つかるわよ! 大体ねぇ、記憶がなくて自分が何者かわからないって言うのなら、それこそコスモピースに願ってはっきりさせればいいじゃない!」

それを聞いたフィオナは、盲点だったとばかりに目を瞬かせる。呆気に取られて二の句が継げないでいる彼女に向かって、ルナはもう一度ため息をつくと、今度は諭すような優しい口調で告げた。

「自分が生きている意味とか、そんな大切で難しいことをすぐに決める必要はないんじゃないの? 焦らなくたって、生きている間に自然とわかるときが来るわよ」

「ルナスタシア……」

「それとも、戦うこと自体が嫌になったの? それなら無理強いはしないけど……」

今度はクリムがフィオナの前に進み出る。

「せっかくお友達になれたのに、このままお別れなんて寂しいです。だからせめて、もう少しここにいませんか? 私はフィオナちゃんと、もっともっと仲良くなりたいんです。一緒にいれば、リーグバトル以外にも楽しいことがいっぱいあると思いますから」

「クリムローゼ……」

フィオナが困った様子でゼロへ視線を向ければ、ゼロは頷きながら彼女へ告げた。

「決めるのは君だ。君が思うように行動すればいい」

それを聞いたフィオナは、目を閉じてゆっくりと深呼吸をした。しばしの沈黙の後、再び目を開けた彼女はクリムに向かって右手を差し出す。
クリムの表情が輝いて、すぐに手を強く握った。2人の様子を見たルナは、満足げに頷きながら2人に歩み寄っていく。

「これで決まりね。それじゃあ新しい仲間が加わったことだし、ここで一度決意表明といきましょう!」

2人の手にルナの手が重なる。

「私は、行方不明の兄さんを見つけるために」

ルナと目が合い、クリムが頷き返す。

「私は、故郷の星を救うために」

2人が揃ってフィオナを見つめれば、フィオナはわずかに頬を赤らめながら口を開く。

「私は……私が生きている意味を見つけるために……」

フィオナが言い切ったそのとき、ゼロの手が伸びてきて3人の手に重なった。

「それなら、私は君たちの願いを叶えるために」

4人が互いの顔を見合わせる中、ルナが大きく息を吸った。

「まずはプライムリーグ入りを目指して、力を合わせて頑張るわよ!」

「おー!」

拳を振り上げた3人から少し遅れること、フィオナも見様見真似で拳を掲げる。慣れないことにとまどっているようだが、その顔はまんざらでもなさそうだ。

「それじゃあ今日のお食事会は、フィオナちゃんの歓迎会に変更ですね!」

クリムがはしゃいだ様子で手を叩いている。

「部屋も決めないとね。――あっ、そうそう! ルナスタシアじゃ長ったらしいから、私のことはルナって呼びなさいよね!」

ルナが思い出したように告げれば、クリムもそれに便乗する形で挙手をした。

「そうですよ! 同じチームになったからには、今度こそクリムって呼んでいただきます! だからフィオナちゃんは……そうですね、フィオちゃんなんてどうですか!?」

その提案を聞いたフィオナは不思議そうに首を傾げる。

「……どうして私まで、そんな風に呼ばれないといけないの?」

「愛称だからです! その方が仲良しって感じでいいと思います!」

「フィオね。呼びやすくなっていいんじゃない?」

「……たった1文字減っただけなのに?」

楽しげに笑うクリムとルナに、反応に困りながらも嬉しそうに見えるフィオ。彼女たちのはしゃぐ姿を、ゼロはロボアイに優しげな色合いを湛えながら見守っている。

「こんなところで立ち話もなんだ。さあ、中に入って食事にしよう」

手を叩いてゼロが促す。

「はーい! フィオちゃん、こっちです!」

クリムに手を引かれながらフィオはホームへ入っていく。
その夜。閉じられたドアの向こうでは、楽しげな会話が一晩中繰り広げられた。


翌日の休日。
午前10時を迎えた複合施設エリアの大通りでは、店のシャッターが次々と上がって客を迎える準備が整えられている。そのうちの1店であるソフトクリーム屋では、ベンチの設置を終えた店主が大きく背伸びをしている。
そのとき、店に向かって駆けてくる足音が店主の耳に届いた。

「おじさん、おはようございます!」

クリムとルナが、フィオを引っ張りながら店を訪れた。店主は3人の姿を見ると、白く輝く歯を見せるようにニッとした笑顔を向ける。

「いらっしゃい! 食べてくかい?」

「もちろん!」

「さあフィオちゃん、お好きなものを選んでください!」

クリムに背中を押されて、フィオはディスプレイの前に立たされる。
充実した商品ラインナップは、スイーツが好きな少女たちがあれこれと目移りしてもおかしくないものだ。しかしフィオは、色とりどりの商品には目もくれずに、真っ白なバニラを指差した。

「これでいいわ」

横から覗いていたクリムとルナは、その選択に首を傾げていた。

「バニラはこの前食べたんでしょ? また同じのにするの?」

「たしかにバニラもおいしいですけど、他のもお勧めですよ? このストロベリーなんてどうですか?」

2人が違うものを勧めても、フィオは頑として譲らなかった。
店主からバニラを受け取ったフィオは、真剣そのものの顔で2人に向かって宣言する。

「うっかりしていると言われて納得できない。だから誰の手も借りずに、溶ける前に食べきれるようになるまで、私はバニラ以外食べないわ」

言うが早いか、フィオはすぐにソフトクリームを舐め始める。その一生懸命な姿に、クリムとルナは揃って呆気に取られてしまった。

「……フィオちゃんって、結構負けず嫌いなんですね」

クリムが呟けば、店主の豪快な笑い声が朝の大通りに響き渡った。

~ 了 ~