コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 27 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

誰もが予想外の出来事に固まっている。当人である、フィオナすらも。

「……私、何を……?」

呆然と立ち尽くすフィオナだが、敵を庇う行動を仲間が見逃すはずがなかった。

「フィオナてめえっ、せっかくのチャンスを邪魔しやがったな!」

「この裏切り者め!」

激昂したゴライアスたちが、フィオナを標的にして次々と乱射する。なおも固まったままのフィオナの前に、今度はルナが降り立った。

「スラッシュストーム!」

振り回した大剣から激しい風が巻き起こり、銃撃の軌道をことごとく逸らした。守られた格好となったフィオナが、瞳を瞬かせながらルナを見つめる。

「……どうして、私を庇ったの?」

「あなたがやったことを、そっくりそのまま返しただけよ」

そう告げると、彼女は振り向いて微笑んだ。

「クリムは、間違っていなかったみたいね。そうでないと、あの一瞬であの子を守るために動けるはずがないもの」

「ルナスタシア……」

「クリムを守ってくれてありがとう。あの子の言葉を信じて、私もあなたを信じるわ!」

頷いたルナが、改めてナイトメアードたちに向き直る。

「すべての元凶はあなたたちみたいね! こんな酷い真似をして、ただで済むと思わないで!」

そう宣言してクリムに駆け寄ると、ルナは自分のブースターを外してクリムへと差し出した。

「使いなさい。パンツァー用だから飛行性能は落ちるけど、無いよりはマシでしょ?」

起き上がったクリムは、ルナの顔とブースターを交互に見て、心配そうな顔で首を振った。

「でも、それじゃあルナちゃんの機動力がなくなってしまいます」

「みくびらないで頂戴。私は蒼い月の民よ? ブースターがなくたって、戦う方法はいくらでもあるわ!」

自信ありげに頷くルナを見て、クリムは決意を固めたらしくそれを受け取った。

「はい! ありがたく使わせていただきます!」

「さっさとあいつらをぶっ飛ばして、師匠を助け出すわよ!」

「はい!」

表情を引き締めて武器を構える2人を見て、ロボたちは愉快そうに笑い出す。

「たかが女2人、返り討ちにしてやるぜ!」

「機動力を失った黒い方は1人で十分だ! 赤い方は3人で攻めるぞ!」

一番近くにいたゴブロンがルナに向かっていき、残る3体がクリムへと駆けていく。

「まずはお前からだ! 機動力のないパンツァーなんかサンドバッグと同じだぜ!」

「舐めないで! スラッシュストーム!」

接近しようとしたゴブロンは、ルナが大剣を振り回したため足を止める。しかしルナは、その攻撃をゴブロンめがけて放つのではなく、どういうわけか足元の砂に向かって繰り出していた。砂は次々と舞い上がっていき、すぐに2人を砂塵の中に包み込む。
周囲の視界が完全に塞がったところで、ルナは大剣を中段に構えて目を閉じた。

「蒼月流剣技……」

すぅっと息を吐き出して、神経を研ぎ澄ませる。

「な、なんだこりゃ! 目くらましか!?」

困惑したゴブロンが声を上げた瞬間、ルナはカッと瞳を見開いて突進した。

「朧月夜!」

踏み込むと同時に3連撃を叩き込めば、ゴブロンは何が起こったのかも認識できないうちにスパークした。

「この技、ブースターを装備していると使えないのよね。音が出ちゃうから」

動かなくなったゴブロンを一瞥しながら呟いて、ルナはクリムの加勢へと向かう。
クリムはその頃、エアリアルの制空権を利用して上空からビームガンを撃ち込んでいた。ナイトメアードたちは地上から迎撃しているが、クリムの動きに翻弄されているといった具合だ。

「こいつ、なんて機動性だ! さっきまでとは全然動きが違うぞ!」

しかしゲイズの放ったビームをかわしたところで、クリムの高度が急激に落ち始めた。やはりパンツァー用のブースターでは飛行持続時間が短いため、普段の感覚で使用しているとあっという間にエネルギーが尽きてしまうのだ。

「これで終わりだぜ!」

落下していくクリムを、真下にいるゴライアスが手ぐすね引いて待ち構えている。だがクリムは、すぐに姿勢を整えると一瞬だけ強くブースターを吹かせた。

「ティアリングダイブ!」

落下スピードが上がり、勢いづいた体でゴライアスに突進する。もろに食らったゴライアスは衝撃で宙に浮かび上がり、着地したクリムはわずかに回復したエネルギーを使って再び跳躍した。

「クリムゾンラッシュ!」

レイピアがゴライアスの胸部に命中し、クリティカルとなってスパークさせた。
残るは2体だ。着地したクリムにルナが追いついて、互いの切っ先を敵に向ける。

「これで2対2ね! 女だからって甘く見ないで!」

「あなたたちのような卑劣な人には、絶対に負けません!」

双方の戦いを見つめながら、フィオナはずっと考え続けていた。
結果だけを見れば、卑怯な作戦に荷担してしまったのは紛れもない事実だ。フィオナがシャドウファングの一員として、その行為を勝利に対して必要な手段であると黙認するならば、依頼主の望む通りの勝利を手にすることができるだろう。だがフィオナは、それを良しとはしたくないという己の気持ちをはっきりと自覚していた。たとえ穴があったとしても、それは規定を犯すための正当な理由にはなり得ないということに気付いたのもある。しかしそれ以上に、敵でありながらも自分を信じてくれた2人のためにも、この間違ったバトルを本来あるべき正しい姿に戻したいと思っていた。
そのためになすべきこと。それは、己が窮地に陥れてしまったゼロを、己の手で救出することだった。
フィオナはレールガンを握り締め、対峙する4人を置いてゼロの埋まっているピラミッドへと駆け出した。

「グリーフインパルス!」

走りながら一発放てば、高威力の電磁砲が瓦礫の山の一部分を吹っ飛ばす。破砕音が響き渡ったことで、フィオナの行動はチームメイトたちに知られることとなった。

「フィオナ! 何をしているんだ!」

ナイトメアードが咎めるように叫ぶが、フィオナは攻撃の手を止めなかった。

「ゼロを助ける! こんな戦い方で勝利を得ることを、私は認めない!」

続けざまに2発目を放つ。先ほどよりも距離が近くなった分だけ威力が伝わりやすくなり、1撃目よりも広範囲の瓦礫が吹き飛んでいった。
だが、まだだ。ゼロを掘り起こすためには、まだ沢山の瓦礫が残っている。フィオナは銃口から光輪を3つ発生させて、威力を集中させるべく瓦礫の1点に重ねて威力の集中を図ったが、それを阻止せんと背後からゲイズが迫り来る。

「この裏切り者め! こうしてやる!」

ゲイズが装備している4つの銃口が光を発する。だがフィオナは逃げ出すことなく、その場でしかと地面を踏みしめた。
射出されるゲイズのビーム。それはフィオナから軌道を逸らして砂地に吸い込まれた。

「ぐっ、てめえ!」

砂地に倒れる音とともに、苦しげなゲイズの声が聞こえてくる。フィオナが振り向けば、クリムがゲイズを地面に押しつけるようにしがみついていた。

「こっちは大丈夫です! フィオナちゃん、撃ってください!」

その声に背中を押され、フィオナは鋭い瞳で目標を睨みつける。

「トリプルロック! グリーフインパルス!」

放たれた3つの光球が、瓦礫に1つ命中するごとに大きな爆風を巻き起こす。瓦礫は次々と破砕されていき、3つ目が直撃したところで大半の瓦礫が消え去った。

「くそっ、離れろ!」

ゲイズがもがくが、クリムは必死に掴んで離さない。揉み合いになる2人の背後から、砂地を蹴る足音が近づいてきた。

「クリム! 離れて!」

ルナの声が聞こえたところで、クリムはようやくゲイズを解放した。体を起こしたゲイズのロボアイがブルームーンブレイドを捉えるが、今さらどうすることもできない。

「月花風刃斬、満月!」

脳天に強烈な一撃を食らい、クリティカルヒットとなったゲイズが派手にスパークした。シャドウファングはもはや2人しか残っていないが、フィオナが反旗をひるがえした今、残る敵はナイトメアードだけだった。

「くそっ! こうなったら時間稼ぎだ!」

不利を悟ったナイトメアードがその場から逃げ出す。残り時間ボーナスを考慮した上でも、シャドウファングはこの時点でポイント差による負けが確定してしまった。ランキングの変動を最小限に抑えるには、これ以上の撃墜を避けるのが懸命な判断である。だがルナたちには、彼をこのまま見逃せない理由があった。

「師匠は私たちに任せて、クリムはあいつを追いなさい! こんな卑怯な作戦を二度と立てられないように、徹底的に懲らしめてやるのよ!」

「はい!」

彼らの所業を許せないのはクリムも同じらしく、ためらうことなくナイトメアードを追撃していく。コスモリーガーの誇りをかけた勝負の行方を彼女に託して、ルナとフィオナは互いに顔を見合わせた。
双方ともに、もう戦う意志はなかった。2人は同時に頷くと、ゼロを助けるべく瓦礫に向かった。

「……でも、ナイトメアードの地上走行速度はチームで一番よ。使い慣れないパンツァー用のブースターで、クリムローゼは追いつけるのかしら?」

フィオナはクリムの走っていった方角を心配そうに見つめているが、ルナはそちらを見ることなく、強気な声でそれに答えた。

「クリムなら大丈夫よ。あの子は自分のためよりも、人のために無茶をするような子だもの。絶対に追いついて、あいつを倒してくれるはずよ!」

「……信じているのね。クリムローゼのことを」

フィオナがポツリと呟く。互いに信頼しあっている2人の関係が、少しばかり羨ましく思えてしまったのだ。

「だってあの子、馬鹿みたいにまっすぐなんだもの。肩肘張ってるこっちの方が馬鹿馬鹿しくなるくらいにね。あなただって、そう思ったからこそ協力してくれたんでしょ?」

フィオナはどう答えて良いのかわからず無言になるが、ルナはフィオナに目を向けると、どういうわけか微笑んだ。

「やっぱりね。あなたも結局私と同じで、あの子にほだされちゃったってわけね」

「……あなたと同じだなんて、想像できないわ」

素直な感想を口にすれば、ルナの口からは小さな笑い声が漏れた。


地上を駆けるナイトメアードが、背後に迫る気配に気付いて振り返る。

「逃がしません!」

ナイトメアードは、飛行と地上走行を織り交ぜながら追撃してくるクリムの姿に驚愕した。

「馬鹿な! いくら砂地でスピードが落ちているとはいえ、俺のスピードに追いつけるのか!?」

「いけないことをしたら、ちゃんと叱らないとダメなんです! あなたたちが二度と卑怯な真似をしないように、ここでしっかりと反省してもらいます!」

「何を生意気な! ホースインパクト!」

ナイトメアードがブロードソードを地面に打ち付けた途端、地面がボコボコと膨れあがって次々と砂柱を巻き上げた。クリムはブースターの火を強くして飛行し、それらを高機動で避けながらナイトメアードに肉迫する。

「ええぃ!」

ビームレイピアの刺突が直撃し、バランスを崩したナイトメアードが激しく地面を転がっていく。

「ぐあっ!」

クリムも勢い余って地面に落下するが、すぐに力尽くで飛び起きると、助走をつけて地面を強く蹴った。

「アクセルバウンド、クリムバージョンです!」

レイピアを構え、一足飛びでナイトメアードに迫る。

「反省してください! クリムゾンラァ――ッシュ!」

「ぐああああ!」

攻撃はボディの中心に命中し、スパークしたナイトメアードは地面に倒れて動かなくなった。

~ つづく ~