コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 26 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

互いに敵愾心を剥き出しにしながら戦い続ける2人を、クリムが泣きながら見つめている。

「ルナちゃん、フィオナちゃん、やめてください!」

クリムの声は、戦いに集中している2人の耳に届かない。クリムはどんどん離れていく2人を追うべく立ち上がるが、敵の4体が黙っていなかった。

「まずはこいつを撃墜する! 一斉にかかれ!」

ナイトメアードの指示によって、四方向から飛びかかられる。クリムは咄嗟に上空へ逃れるが、そこにはゲイズが待っていた。

「逃がすかよ! たっぷりといたぶってやるぜ!」

放たれたビームが腰に命中し、バランスを崩したクリムの高度が落ちる。それでもなんとか飛行状態を維持するが、動きは精細さを欠いており避け続けるのは至難の業だ。
クリムは思い悩んでいた。フィオナと親しくしようとした自らの行動が、チームの危機を招いてしまったのではないかと考えていたのだ。

「ルナちゃんの、言う通りなんでしょうか……?」

自分たちの敵であるフィオナは、勝利のためには手段を選ばない。それが本当ならば、たしかにピラミッドに誘い込まれた説明はつく。崩壊しようというときも、彼女が真っ先に脱出できたのは罠であることを知っていたからだとすれば辻褄も合う。だが、それでもクリムは、フィオナがこのような罠を仕掛けるとは思えなかった。――否、思いたくないと言った方が正しいのかもしれない。
警戒心や危機感を持てと、常日頃から言われ続けていた。それなのに、敵であるフィオナに心許してしまったことが今回の事態を引き起こしたのだとすれば、すべての原因はクリムにあるということになる。それが嫌で、責任から逃げるためにフィオナを引き合いに出そうとしているだけなのかもしれない。そんな様々な考えが頭の中を巡り、クリムは自己嫌悪と責任の重さに押し潰されそうになっていた。

「ゼロさん……私、どうしたら……」

尋ねても、頼りのゼロは瓦礫の中だ。今度ばかりは自分たちの力でなんとかしなければならないのに、どうすればいいのかわからない。それでも救いを求めるようにゼロの姿を思い浮かべていると、クリムの脳裏に昨日の言葉が浮かび上がってきた。

『バトルでは敵だとしても、それ以外の場でいがみ合う必要などない』

『敵チームという色眼鏡を取り払い、ありのままの相手を見つめる。そうして互いを認め合い、良き友人となれたのならば、それはとても素晴らしいことだ』

それを思い出したクリムはハッと目を見開く。ゼロは、クリムがフィオナと仲良くなることを否定するどころか、それを素晴らしいことだと言って認めてくれた。彼女が悪い人ではないというクリムの言葉を信じてくれたのだ。それなのに、おそらくはチームの誰よりもフィオナとの交流があった自分が自信を失うなど、それこそゼロに対して申し訳が立たないだろう。

「ありのままの、フィオナちゃんは……」

クリムはフィオナと関わった時間を思い出す。コスモリーグに参加受付をする際に助けてもらったこと。騙されそうになっていたところを救ってもらったこと。一緒にソフトクリームを食べて、汚れてしまった彼女の手を拭ったこと。そして、自分が作ったお弁当をおいしいといってくれたことなどを。
すべてを足したところで大した時間にはならない。彼女と関わったのは、コスモリーグに参戦してから今日までの間でも、ほんのわずかな時間だけだ。それでもクリムは、己の目で見て、耳で聞いて、心に感じたことを1つ1つ吟味した。そうして己の中に、はっきりとした答えを見つけ出して顔を上げる。

「やっぱり……こんなのは、間違っています!」

ブースターを強く吹かして加速する。正面にいたゴブロンが身構えるが、クリムは彼を素通りして飛んでいく。

「何っ!? くそっ、逃げる気だな!」

「逃がすかよ! 追うぞ!」

4体が追撃してくるが、砂地に足を取られるために地上走行では十分なスピードが出せない。逆にエアリアルのクリムにはその影響がないため、クリムは追撃を振り切ってルナたちのもとへ一直線に向かっていった。


その頃、ルナとフィオナの戦いは膠着状態に陥っていた。距離があればバスターであるフィオナが有利で、近づいてしまえばパンツァーであるルナが有利だ。互いにそれがわかっているからこそ、フィオナはマグネガンで牽制しつつ距離を取ろうとし、ルナは訓練で培ってきた身のこなしで避けつつひたすら間合いを詰めようとしているのだ。
互いに決定打に欠ける状況であるが、何らかのきっかけさえあればどちらの有利に転んでもおかしくない。フィオナの瞳が、こちらに高速で向かってくるクリムの姿を捉えたのは丁度そんな頃であった。

「ルナちゃん! フィオナちゃん!」

深紅の瞳がまっすぐにフィオナを見据えている。その鋭さと鬼気迫るような表情を、フィオナは己を責めるものであると受け取った。
当たり前だ。自分たちの仲間が、フィオナのせいで危険な状況に陥っているのだ。だからといって、その恨みや憎しみを己が身に受けるつもりはない。クリムもまた、フィオナにとっては敵なのだ。

「あなたも敵! 敵は倒す!」

レールガンを構え、狙いを定める。

「ジャッジメント・レイ!」

鋭い光をクリムの胸部めがけて放つも、すんでのところで避けられて右脚部のブースターに命中する。装備のダメージはボディへの判定と比べると微々たるもののはずだが、直撃による衝撃が何らかの不具合を引き起こしたらしくブースターから煙が生じた。

「きゃっ!」

クリムのバランスが大きく崩れたのを見て、フィオナは好機とばかりに今度は高威力の砲撃を放とうとするが――

「させないわよ!」

構えていた銃身が跳ね上げられる。ルナの接近を許してしまったのだ。

「これで2対1よ! 観念するのね!」

「くっ、エンジェルフロート!」

咄嗟に後方へジャンプするが、すぐにそれが愚行であったことに気付く。姿勢を立て直したクリムがフィオナへと迫っていたのだ。

「フィオナちゃん!」

急速に接近するクリムと、彼女が持つビームレイピアが視界に入ってフィオナは目を見開く。
やられる。そう思って顔を背けたが、覚悟していた衝撃は訪れず、代わりに浮遊感がフィオナを包んだ。
クリムの顔がすぐ近くにある。腕の自由が利かないことから、フィオナは己の置かれている状況を瞬時に推測した。どうやらクリムに抱きつかれる形で、腕ごと拘束されてしまったらしい。

「フィオナちゃん、もうやめてください! これ以上戦わないでください!」

「――――何を愚かなことを!」

この期に及んで、まだそんな甘いことを言っているのかとフィオナは呆れた。

「そんなだから、あなたは甘いの!」

敵に対して非情になりきれず、とどめを刺さなかった彼女に対してマグネガンを向ける。腕が使えなくとも、フィオナにはまだ攻撃手段が残されているのだ。
すかさず発射すれば、銃弾はクリムの肩や腕に命中して粒子の光を撒き散らす。

「きゃっ!」

衝撃で跳ね飛ばされた体がフィオナから離れる。

「クリム!? このっ、いい加減にしなさいよ!」

ルナが地を駆けて接近してくる。落下するフィオナはレールガンを構えて、今度は彼女へと狙いを定めた。
だが、その体が地面へと降り立つよりも早く、またしてもクリムが飛びかかってきた。ルナに気を取られたことで反応が遅れてしまい、フィオナはまたしても抱きつかれて自由を奪われてしまう。

「よくやったわクリム! そのままギリギリまで押さえていなさい!」

揃って砂地に落下した2人めがけて、ルナは強く地面を蹴って跳躍すると大剣を頭上に掲げた。

「月花風刃斬、上弦!」

大剣の切っ先が煌めく。フィオナは今度こそ観念すると、きつく目を閉じて衝撃に備えた。
拘束が解かれた瞬間、フィオナは敗北を覚悟した。――だが、来ると思っていた衝撃は、一向に訪れなかった。

「なっ――――クリム!? あなた、何をしているの!?」

ルナの困惑した声が聞こえる。フィオナはそっと目を開き、そして驚いた。
フィオナに背を向ける格好で、クリムが両手を広げている。それはまるで、フィオナを庇っているかのようだった。

「どきなさい! そいつを撃墜しないと腹の虫が収まらないわ!」

「いいえ、どきません! こんな戦いは間違っています! 2人が戦う理由なんて、どこにもないはずです!」

「こいつは師匠を罠にかけた張本人なのよ!? 戦う理由はそれで十分だわ!」

「それは違います! フィオナちゃんは、あんな卑怯な作戦を許すはずがないんです! 結果はああなってしまいましたけど……でも、少なくともフィオナちゃんには、私たちを陥れるつもりなんてなかったはずです!」

必死な言葉に、フィオナは己の耳を疑った。目を見開いたまま、クリムの背中をジッと見つめている。

「クリムローゼ……どうして? 私がそうでないと、どうして言い切れるの?」

フィオナが尋ねれば、クリムは正面を向いたままで答えた。

「だってフィオナちゃんは、間違っていることは間違っているって指摘できる人じゃないですか! だから、あんな非情な作戦が行われようとしていたら、真っ先に止めていたはずです!」

強い口調で言い切るクリムに、ルナがすかさず反論する。

「仮にそうだとしても、現に私たちは罠にはめられたじゃない! 作戦を止められなかった時点でこいつも同罪よ! わかったならさっさとどきなさい!」

だがクリムは、それすらも首を振って否定した。

「知っていたなら、フィオナちゃんは絶対に止めていたはずです! だからこそ、私は思うんです! フィオナちゃんはもしかしたら、あの作戦を知らされていなかったんじゃないかって!」

フィオナが驚いて息をのんだ。なぜクリムにそれがわかったのか、理解できずに混乱している。

「馬鹿! 同じチームなのに作戦内容を知らないはずがないでしょ! その子がやったのを見ているのに、どうして庇うことができるのよ!?」

普通なら、ルナのように考えるのが一般的であるはずだ。だがクリムは、フィオナがこれまで見て聞いて、経験してきたこととまったくかけ離れたことを言う。

「私は知っています。フィオナちゃんが、困っている人に手を差し伸べることができる優しい人だってことを。フィオナちゃんが正しいことをしようとする姿を、この目ではっきりと見てきましたから」

振り向いた彼女は、深紅の瞳に優しさを湛えながら微笑んでいる。

「優しくて、正しくあろうとひたむきで、お姉さんみたいにしっかりしているけど……時々、ちょっとうっかりしちゃうような……。私は、そんなフィオナちゃんこそが、本当のフィオナちゃんの姿だと思うんです」

予想もしなかった言葉の連続に、フィオナの口元が震えている。

「……クリムローゼ、なぜ? 私はあなたの敵なのに……どうして味方と争ってまで、敵である私を庇おうとするの?」

震える声で尋ねれば、彼女は会う度に浮かべていた笑顔でそれに答えた。

「だって、私たちはお友達じゃないですか! バトルでは敵同士だとしても、それ以外ではまったく関係ありません! だから私は、フィオナちゃんはそんなことしないって自信を持って言えます! フィオナちゃんのことを、信じていますから!」

信じる。そのたった一言が、フィオナの胸に深く突き刺さった。
敵も、味方も、規定も、自分すらも……何一つ信じられるものなどないと荒んでいた心が、ゆっくりと溶けていく。
思えば、初めからそうだった。クリムはずっと、無条件にフィオナを信じてくれていた。それを突っぱね、否定し、間違っていると言ってきたのは――――己を信じ続けてくれていたクリムを信用しなかったのは、フィオナの方だった。
胸の中に、温かなものが流れてくる。
自分自身ですら信じられなかった己の存在が、今、初めて認めてもらえた。自分はここにいても良いのだと、この世界に存在していいのだと言われているようで、フィオナの体は『生まれて』から初めての歓喜に打ち震える。

「私……私は……」

そっと手を伸ばす。自分を友と呼び、信じてくれた相手に向かって。
その手が届くよりも早く、ルナの叫びがフィールドに響いた。

「クリムっ、危ない!」

気付くと同時に着弾し、目の前にいたクリムの体は背面からの爆発に吹き飛ばされる。

「ああっ!」

伝わる衝撃が、不具合を起こしていた彼女のブースターを今度こそ破壊する。機動性を失った体が無防備に砂地を転がっていく中で、フィオナの視界が4つの銃口を捉えた。

「撃て!」

ナイトメアードたちが、各々の射撃武器を一斉に発射する。攻撃はすべて、動けないクリムへと向かっていた。

「――――っ、クリム!」

自然と体が動いていた。レールガンを構え、叫ぶ。

「グリーフインパルス!」

放った砲撃がミサイルを捉えて爆発。その余波は周囲の銃弾を巻き込んで広がっていき、1つとしてクリムに届くことはなかった。

~ つづく ~