コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 25 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

ピラミッドが崩れていくのを、フィオナは砂丘の上から呆然と見つめていた。
何が起きたのかはわからない。それでもフィオナは、これまでの戦闘経験と、それによって磨かれてきた勘によって即座に『危険』だと判断したため、いち早く脱出することができたのだった。
しかし、同じく中にいたシャインスターズの3人、そして自分以外のメンバーの安否はわからない。ピラミッドの周囲は崩壊によって砂埃が立ち込めているため様子を窺うことができないのだ。フィオナが今できることといえば、この場所から状況を見守ることだけだった。
背後から飛行音が聞こえてきたのは、砂埃が大分薄まってきた頃だった。フィオナが音に気付いて振り返ると、シャドウファングの4人が背後に次々と降り立った。
フィオナはひとまず安堵した。少なくとも、自分の仲間は無事だったのだ。
だが、フィオナの姿を認めたゴライアスは、彼女が抱いたものとは別の反応を見せた。

「チッ! ちゃっかり逃げてやがったか。運の良いやつだぜ」

「……え?」

フィオナは耳を疑った。口調からして冗談や照れ隠しといったものではないのはわかるのだが、彼の発言には妙な違和感があった。まるで、フィオナが崩壊に巻き込まれることを予期していたかのようだ。
そこまで考えたところで、1つの恐ろしい仮説がフィオナの中に生じた。

「まさか……この崩壊は、あなたたちが仕掛けたの?」

「当たり前だろ? そのために敵を誘い込めって言ったんだろうが」

ゴブロンにあっさりと肯定され、フィオナはますますわけがわからなくなる。

「どういうこと? 奇襲は遺跡の内部で仕掛けるはずだったのに、なぜ爆破して崩落させるという方法を取ったの?」

続けざまに尋ねれば、今度はナイトメアードがフィオナの前に進み出た。

「それはもちろん、新製品の威力を試すために決まっている」

そう言って取り出してみせたのは、ロボが各部のパーツを接続する際に用いるジョイントだった。

「シャドウカンパニーが開発した、ジョイントに偽装した小型爆弾だ。ジョイントとして装着している限りはただのパーツだが、取り外して一定の操作をすることで爆弾として使用することができる。コスモリーグの厳重なチェックすらも掻い潜った上に、威力は先ほどの通りだ。これでこの爆弾の実用性は十分に立証された」

「映像はバッチリ記録できたし、敵も一網打尽だ! 今日のバトルの手柄は、爆弾を設置した俺たち4人ってことになるぜ!」

ゲイズが得意そうに話しているが、フィオナの顔は青ざめていく一方だった。

「リーグに申告している武器以外の持ち込みは堅く禁じられているはず。その爆弾は明らかな規定違反よ。それに……」

フィオナは言い淀む。一網打尽ということは、彼らは初めから敵を誘い込んだところでピラミッドを崩壊させるつもりだったということだ。そしておそらくは、囮役であるフィオナが巻き込まれることも想定していたに違いない。

「……なぜ、私まで巻き込もうとしたの? 私はあなたたちと同じシャドウファングのメンバー。味方なのに……どうして?」

味方が規定を違反したことに加え、自分がただの囮役ではなく、本当の意味で囮にされていたのだという事実がフィオナを混乱に陥れる。味方であるはずなのに、信じるべき相手であるはずなのに。規定は、戦いという単純な図式は、フィオナの存在を認め確立してくれるはずのものなのに。それらすべてに裏切られるということは、これまで信じてきたものがすべて崩壊することと同義だ。
そうではないのだと、フィオナは一縷の希望にすがるように彼らに尋ねる。しかし真実は、彼女にとってどこまでも残酷だった。

「チッ、うるせえなぁ! 規定だなんだって鬱陶しいんだよ! てめえはいつまで俺たちの足を引っ張りゃ気が済むんだ!? ああ!?」

ゴライアスが凄めば、他のメンバーも一様に頷いた。

「何を申告する必要がある? これは正式なチェックを通ったパーツだ。それがたまたま爆弾と同じ威力を持っていたとしても、我々はあくまでもパーツとして使っていたに過ぎない。あの遺跡が崩れたことについては、老朽化に加えて戦闘による衝撃が原因となっただけだ」

「そうそう。俺たちは何にも違反していないし、何の問題もないんだ」

「お前は楽でいいよな。ただドンパチやっているだけで社長に気に入られるんだからよ。シャインスターズのやつらと一緒に埋まっちまえば少しは俺たちの苦労もわかるってもんなのに、まさか脱出するなんてな。本当に鬱陶しいやつだぜ」

これによって、はっきりしてしまった。チームの誰ひとりとして、フィオナのことを快くは思っていない。同じチームでありながら、彼らはフィオナの味方ではなかったのだ。そしてリーガー規定も、偽装されたパーツを見抜くことができなかった。絶対だと思っていた規定やチェック体制は、穴を見つければ容易に掻い潜れる程度のものでしかなかった。
絶望し、フィオナはその場に崩折れる。もはや何を信じ、何を支えにすれば良いのかわからない。チームメイトたちは、そんな彼女には目もくれることなくピラミッドがあった場所へ意識を向けた。
砂煙は大分収まっていた。うっすらと見える瓦礫の山の近くには、小さな人影が2つある。それを見たゴライアスが、頭部を押さえながら呆れ声を上げた。

「おいおい、あいつらまで脱出しているじゃねえか! ったく、てめえは囮にも使えねえ愚図だな!」

「だが、1人は巻き添えにしたようだ。残る2人くらい、この人数差なら簡単にねじ伏せられる。行くぞ!」

ナイトメアードがブロードソードを手に駆け出して、他の3体もそれに続こうとしたそのとき、砂煙の先にいた2人――クリムとルナが脇目も振らずに瓦礫の山へと駆け寄っていく。

「ゼロさん、ゼロさん!」

涙を流すクリムは、華奢な手で掴んだ瓦礫を必死に動かそうとしている。

「師匠、今助けます!」

ルナは青ざめながらも、全身を使って重い瓦礫を掻き分けている。

「何だぁ? あいつら何やってんだ?」

ゴブロンが呆れ声で呟く。

「とにかく今がチャンスじゃないか? やっちまおうぜ!」

ゲイズの言葉が合図となり、フィオナ以外の4体は一気に砂丘を駆け下りていく。すぐにルナが気配を感じ取って振り向いたが、彼女は迎撃の体勢は取らずに、両手を挙げて降参のポーズをしながら叫んだ。

「待って! この瓦礫の下に、師匠が取り残されているの! 私たちの負けでいいから、今は待って! 師匠を助けたいのよ!」

2人はバトルを放棄してでもゼロを助ける意思を示しているが、4人の足はそれを聞いても止まらなかった。

「やなこった! さっさと撃墜しねえとボーナスポイントが入らねえだろうが!」

「助けたいのなら、さっさとバトルを終わりにしようぜ!」

ゴライアスとゴブロンが口々に告げれば、ルナは目を見張ってすぐさま反論した。

「何を馬鹿なことを言ってるの!? バトルが終わったら、プロテクト粒子が解除されちゃうじゃない! こんなに沢山の瓦礫が積まれている状態で粒子が解除されたら、途端に押し潰されてしまうわよ!」

「お願いです、みなさんも手伝ってください! 時間切れの前にゼロさんを助けないと、ゼロさんが死んでしまいます!」

バトルが始まってしばらく経つ。残された時間はおよそ20分程度だろうが、それまでにゼロを助けなければ時間切れによって粒子コーティングが解除されてしまう。ゼロを助けるためには、この20分間の間に瓦礫を撤去して引っ張り出すしかないのだ。
2人の叫びを聞いたフィオナは、おぼつかない足取りながらもなんとか立ち上がる。彼女の中にまだ残っている、リーグの秩序を守らねばならないという使命感が自然と体を動かしたのだ。コスモリーグは戦争とは異なり、あくまでも平和的でスポーツライクな競技だ。バトルによって死者が出るなど、あってはならない。
しかしナイトメアードは、クリムたちの訴えを一笑に付した。

「手伝うだと? 何を馬鹿なことを。撃墜アナウンスがされていないのだから、我々はこの中にいるやつのポイントすらまだ獲得できていないのだ。このまま瓦礫の重みに任せてスパークするのを待ちこそすれど、助ける義理や利点など、どこにもない!」

加速したナイトメアードが、振り上げたブロードソードをルナめがけて振り下ろす。ルナは間一髪のところでそれを避け、すぐに怒りで顔を真っ赤に染め上げた。

「あなたたちは、どこまで卑怯なの!? それでもコスモリーガーなの!?」

「俺たちは社長に雇われているんだぜ? リーガーだろうが、社長の命令が最優先に決まっているだろ!」

ゲイズの言葉に、とうとう堪忍袋の緒が切れたのだろう。ルナは大剣を構えると、怒りによって吊り上がった瞳でシャドウファングの面々を睨みつけた。

「もういいわ! 全滅させなければいいんだから、邪魔ができないように叩き斬ってやるわよ!」

ルナがナイトメアードたちに向かって駆けるが、4体はすぐさま左右に散って相手をしようとしなかった。代わりにルナの瞳が捉えたのは、呆然と突っ立っているフィオナの姿だった。
ルナは音が出そうなほど強く歯を食いしばり、フィオナに向かって大剣を振り上げた。

「この卑怯者!」

青い刃の煌めきを認めたことで、固まっていたフィオナの思考はようやく活動を再開する。それはほとんど本能に近く、特に意識するでもなく体は自然と後方に飛んで避けていた。
間合いを広げたフィオナを、ルナが憎々しげに睨んでいる。

「チョロチョロ逃げ回って、私たちを罠に誘い込むなんて! こんな作戦を実行できるってことは、あなたも勝つためには手段を選ばないようなやつだったのよね!」

「――っ、違う! 私は――」

否定しようとした矢先に、ルナの振るった大剣が鼻先を掠めた。

「何が違うのよ!? クリムはあなたを信じていたのに、こんな形で仕返しをするなんてあんまりだわ! あの子の気持ちを最低な方法で踏みにじって……ほんのちょっとでも、あなたを信じようとした私が馬鹿だったわ!」

再び違うと言いかけたが、今度はまったく言葉にならなかった。教えられていなかったとはいえ、あの作戦を遂行するために行動したのは紛れもない事実だ。それはどんなに弁明したところで覆せるものではない。そして何よりも、フィオナはシャドウファングのメンバーであり、シャインスターズの敵だ。ルナには、敵であるフィオナの言い分を信じる道理などなかった。
そこまで思い至ったところで、フィオナは気付いてしまう。これまで遵守してきたリーガー規定に違反してしまった今、自らもまた秩序を乱した違法者だということに。そんな存在を、一体誰が信じてくれるというのだろうか。

「私は……私は――――っ!」

味方も敵も信じられない。誰も自分を信じていない。
そもそも、始まりからしておかしかったのだ。記憶を持たず、己が何者かを知らず、何のために生まれ、何のために生き、何のために戦っているのかもわからない。フィオナにとって、自分こそが最も曖昧で信用できない存在だった。
これまで支えとなっていた規定や秩序、戦場における敵味方の定義も曖昧なものとなった今、フィオナを肯定してくれるものは何もない。だが、それでも彼女には戦いしかなかった。己の腕と、ともに戦場を駆け回った愛銃だけが彼女のすべてだ。それすらも失ってしまっては、本当に何もなくなってしまう。今日まで生きてきた証も、己が生まれ、存在してきた理由も……。
フィオナはレールガンを構える。たとえ、ただの戦闘マシーンとして生きることしかできなかったとしても、すべてが無意味になってしまうことに比べればはるかにマシだった。
そのためには、勝たねばならない。目の前にいる敵を倒して、勝利を掴み取らなければならなかった。

「敵はすべて、――――倒す!」

発射した光弾はアクセルバウンドによって避けられるが、フィオナは接近したルナに対してすかさずマグネガンを向けた。放たれた弾丸は拡散した後に収束し、一気に敵へと襲いかかる。

「くっ!」

たまらず距離を取るルナだが、フィオナは体勢を立て直す暇を与えなかった。

「ジャッジメント・レイ!」

ルナの脇腹を、速射性能の高いレーザーが掠めていく。胸に命中すればクリティカル判定でスパークしていてもおかしくない一撃だったが、ルナはそれに怯むことなく、体勢を立て直して再びフィオナに向かっていった。

~ つづく ~