コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 23 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

作戦の立案はリーダー格であるナイトメアードの役目で、フィオナが口を出すことはまずなかった。作戦がルールに則ったものでさえあれば、どんな内容であっても己の役割を果たすことができると考えているためだ。この日も彼が各々に役割を振っているのを、フィオナは黙って聞いていた。
そして、いよいよフィオナに明日の役割が伝えられる。

「フィオナ。明日のステージは遮蔽物が少ないから、バスターであるお前にとって有利な地形だ。敵はおそらく、それを理解した上で真っ先にお前を叩きに来るだろう。そこでお前には、敵をおびき寄せるための囮役になってもらう」

囮と聞いて、フィオナは怪訝そうに眉根を寄せた。

「バスターが有利なステージで、わざわざ囮に回るからにはそれなりの理由があるのよね?」

「無論だ。敵のシャインスターズは、アサルトにパンツァー、エアリアルという接近戦と機動力に特化したチームだ。いくらバスターに有利な地形といえど、近接戦闘に持ち込まれたら不利になる可能性がある。だからこそ、それを逆手に取って敵の機動力を削ごうというわけだ」

ナイトメアードはディスプレイを操作して、明日のバトルフィールドの航空写真を表示させる。
広大な砂漠には、ピラミッドや風化した神殿跡とおぼしきオブジェクトが点在しているだけで遮蔽物はほとんど見当たらない。ナイトメアードは、そのうちの1箇所にあるピラミッドを拡大表示させた。視点が近づくにつれて内部が透けて見え、入り組んだ通路と、その先にある空洞を映し出す。

「この通り、ピラミッドの中央は空洞になっている。四方を壁に囲まれているこの空間では、アサルトやエアリアルは機動力を活かすことができない。ここに敵を誘い込み、十分に引きつけたところで俺たちが後方から襲撃して挟み込むのだ」

「そんでもって、一網打尽ってわけだな」

ゲイズが納得した様子で頷いている。

「この作戦の狙いは、敵を早期に叩くことで高得点の残り時間ボーナスを獲得することにある。そのための鍵になるのが、囮役のお前というわけだ。失敗したら承知しないぞ?」

ナイトメアードが念を押すように告げてくる。彼の作戦に納得したフィオナは、異を唱えることなく席を立った。

「私は失敗なんてしない。……これで会議が終わりなら、先に休ませてもらうわ。疲れているの」

そう言って、フィオナはミーティングルームを退室した。
武器の手入れは終わっており、趣味というものもない。フィオナは明日の戦いに備えるべく、先ほどの言葉通り早々に休むことを決めて自室へと戻っていった。


残ったメンバーは黙ってフィオナを見送っていたが、彼女が本当に自室へ引き取っていったのを見届けると、ミーティングルームに戻ってヒソヒソと会議を続けた。

「第1段階はクリアだ。これを使うことがフィオナに知られれば、厄介なことになるだろうからな」

ナイトメアードは自らの肩部パーツを外すと、接合部分からジョイントを取り外してみせた。すると他のロボたちも、脚部などの関節から次々とジョイントを外して目の前に持ち上げる。

「まったくよぉ、ルールが、規定がってうるせぇんだよな。そういったものを守ったところで、勝てなきゃ何にもならないってのによ」

ゴライアスが肩を怒らせる。先ほどは引き下がったが、やはりまだ怒りは収まっていないようだ。彼の言葉に同意するように、隣にいるゴブロンが頷いている。

「フィオナが敵の相手をしている間に、俺たちはこれを設置すればいいんだよな? そうしてピラミッドの中に入り込んだところで、一気にやっちまえばいいんだな?」

ゴブロンが確認の意味を込めて尋ねれば、ナイトメアードはそれで良いとばかりに頷いてみせる。

「でもよ、それじゃあフィオナも巻き込まないか? 脱出する暇なんてないだろ?」

ゲイズが疑問を口にするが、それに答えたのはゴライアスだった。

「けっ、構いやしねえさ! 社長に気に入られて調子に乗っているやつには良い薬だ!」

これに反論する者は、誰もいない。この場にいる全員が、フィオナの待遇に対して不満を抱いているのだ。
皆が一様に納得しているのを見たナイトメアードは、手にしていたジョイントを元のように取り付けながら話をまとめた。

「よし。明日も勝って、社長からの報酬を4人で山分けするとしよう」

フィオナ抜きで行われた作戦会議。まさか信じられるはずの味方に裏切られようとしているなど、彼女は想像すらしていないだろう。


シャドウファングが作戦会議を行っている頃、シャインスターズのホームには気まずい空気が流れていた。
自室のベッドに座りながら落ち込むクリムを、ルナがドアの向こうから心配そうに見つめている。話しかけたくても、何と言って良いのかわからないようだ。
そんなルナの姿を、ゼロは廊下の影からそっと見守っている。彼女たちが言い争っている間も一切口を挟まなかったゼロだが、一向に状況が進展しないのを見かねたのか、ようやく腰を上げるとルナの肩をポンと叩いた。
不安げに見つめてくるルナに頷き返して、ゼロはそのままクリムの部屋に入って行く。クリムはそれでもうつむいたままのため、ゼロは彼女の隣に腰掛けると反応も待たずに話し出した。

「君の気持ちはわかる。……だがルナは、君が心配だったからこそきついことを言ったのだ。それはわかるだろう?」

尋ねれば、クリムは頷いた。ゼロはさらに言葉を続ける。

「世の中は、君の故郷のように善人ばかりではない。悲しいことだが、己や周囲の者たちを守るためには、目の前にいる相手が何者であるのかを見極める必要があるのだ。それは相手を疑ってかかることであり、場合によっては排除しなければならないということでもある。ルナは君や私を守るために、その汚れ仕事を引き受けてくれたのだ」

その言葉にも、クリムは頷いてみせた。

「わかっています。ルナちゃんは、頼りない私をいつもフォローしてくれますから。今回のことも、私が浅はかだったのが原因で、ルナちゃんには何の落ち度もありません。だけど……」

クリムは言い淀むが、首を振ると目元を拭って顔を上げた。

「やっぱり私には、フィオナちゃんが悪い子だとは思えません。ちょっと素っ気ないところもありますけど……だけど、私は何度も助けてもらいました。困っていたところを、手を差し伸べてもらいました。そんな風に人を助けることができるフィオナちゃんのことを……私は、とても優しくて素敵な女の子だって思うんです」

クリムはルナを見た。視線が合ったことでルナが肩を震わせるが、クリムはそんな彼女に微笑みかけながら言葉を続けた。

「私は、ルナちゃんの言う通り危機感が足りませんから。だからきっと、付け入ろうと思えば、できるチャンスはいっぱいあったと思うんです。でも、フィオナちゃんはそうしませんでした。それはきっと、フィオナちゃんには裏も表もないからで……だから、私たちが見知っているフィオナちゃんこそが、きっとありのままの姿なんです。そう思うから……私は、フィオナちゃんを信じています」

クリムの考えを聞いたルナはグッと言葉に詰まったようだが、すぐにため息を吐き出すと、頭をガシガシと掻きむしった。

「……わかったわよ。あなたはあなたなりに考えて、ちゃんと判断していたのよね。私もちょっと、心配が過ぎたみたいだわ」

ルナも室内に入ると、クリムの前に立って両手を合わせた。

「ごめん。さすがに言い過ぎたわ。……明日のバトルが終わったら、2人で謝りに行きましょう」

「ルナちゃん……」

「すぐには許してもらえないかもしれないけど、無事に仲直りができたときは……今度こそ、夕食を食べていってもらいましょう。私もできる範囲で手伝うから。……その、迷惑にならない範囲で……」

ルナがちらと視線を向ければ、クリムは満面の笑みで喜びを露わにした。

「――――はい! ありがとうございます、ルナちゃん!」

「でも、バトルではそうはいかないわよ? 対戦相手である以上、手を抜いたりしたら私が承知しないんだからね?」

謝るが、釘を刺すのは忘れない。そんなルナに対して、クリムは力強く頷いてみせた。

「わかっています! バトルをするからには正々堂々、全力で戦わないとフィオナちゃんにも失礼ですもんね! 頑張りましょうね、ルナちゃん!」

すっかりいつもの調子に戻ったクリムの姿に、ルナとゼロは揃って安堵した。ゼロはロボアイに優しい光を宿しながら、クリムの肩にポンと手を置いた。

「うむ。本物の戦場ならいざ知らず、ここはコスモリーグだ。バトルでは敵だとしても、それ以外の場でいがみ合う必要などない。敵チームという色眼鏡を取り払い、ありのままの相手を見つめる。そうして互いを認め合い、良き友人となれたのならば、それはとても素晴らしいことだ」

ゼロの言葉に、ルナも頷いて同意を示す。

「そうですね。……今回ばかりは、クリムに教えられたような気がします」

「どういうことですか?」

クリムが不思議そうに首を傾げる。ルナは苦笑すると、クリムの額を人差し指でツンと突っついた。

「あなたみたいなのんきさも、たまにはあってもいいってことよ」

そう告げれば、クリムは明るく笑うのだった。


翌日を迎え、対戦ステージとなる星へ移動中のシップにて。3人はシャドウファングの登録情報を見ながら、昨日できなかった作戦会議を行っていた。

「注意すべきは、やはりこのフィオナだ。正確な射撃に加えて高威力の砲撃。我々のチームには長距離型がいないから、彼女を撃墜しない限り好き放題に狙撃され続けることになるぞ」

「ざっと戦績を見る限りじゃ、フィオナ以外は大したことはなさそうですね。まずは一にも二にも、このフィオナって子を落とす。そういうことでよろしいですか?」

ゼロが頷くのを見て、ルナはクリムに視線を向けた。

「クリム。念のためにもう一度言っておくけど、あいつに遠慮して攻撃の手を緩めるようなことはしないでよね?」

「もちろんです! あんなにすごいフィオナちゃんと戦うんですから、手抜きなんてできません! 全力でお相手させていただきます!」

クリムには、昨日のような落ち込んだ様子はもう見られない。彼女のやる気を再確認したところで、ゼロが作戦のまとめに入った。

「フィールドではフォーメーションを組んで移動しよう。私が前を走って前方を、ルナとクリムが後ろを走って左右と後方を警戒する。フィオナの位置を特定でき次第散開し、三方から挟み込んで一斉攻撃だ」

「了解!」

「わかりました!」

作戦会議が終わるのを待っていたかのように、丁度良いタイミングでシップが目的地に到着する。粒子コーティングを身に纏い、3人はフィールドに降り立った。

『バトルスタート』

AIの声がフィールドに響くと同時に、3人はブースターに点火させて駆け出した。

「フォーメーション展開、前進する! 周囲への警戒を怠るなよ!」

ゼロの指示通りに、3人は砂埃を巻き上げながら前進していく。事前情報でマップの映像を受け取ってはいたものの、実際にフィールドを走ってみるとやはり一面が砂漠であり、ピラミッドなどのオブジェクトは申し訳程度に点在しているだけだった。
遮るものはないため、前後左右のどこからでも狙撃が可能だ。3人が警戒を強めたそのとき、右前方で青白い光が煌めいた。

「狙撃だ! 散開しろ!」

気付いたゼロが叫び、彼は右に、ルナは左に飛び退く。クリムがブースターを強く吹かして上空へ逃れたところで、先ほどまで3人がいた場所に光弾が命中して砂埃を巻き上げた。

「この光弾は、フィオナの攻撃に違いない! 射線を辿るぞ!」

「了解!」

「フィオナちゃん、勝負です!」

方向転換した3人の姿を、フィオナは風化した列柱の影に身を潜めながら確認した。そうしてさらに数発放ったが、初めから当てるつもりはないためあっさりと避けられる。

「問題ない。囮として敵を引きつけることが、私の役割だもの」

その役割さえ果たせれば、必ずしも敵を撃墜する必要はない。フィオナは割り切った考えでもう一度引き金を引くと、敵との距離がある程度縮まったところでその場から逃走した。

~ つづく ~