コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 21 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

急ぎ足のクリムがホームの見える通りに差し掛かったところで、開け放たれている玄関からルナが出てきた。ルナは玄関先で手にしていたクッションをはたき、それに付着しているすすを払っていた。

「ルナちゃん、ただいま戻りました!」

「あ、おかえりクリム――――って、随分と買い込んだわね!?」

クリムの帰宅に気付いたルナは、彼女が持っている荷物の多さに仰天した。クッションをはたく手を止めて、クリムの荷物を指差している。

「つい買い過ぎちゃいましたけど、これでますますお料理が楽しみになりました!」

「それはいいけど、ちゃんと装備に回す分は残しているんでしょうね? この前は私もうっかりしちゃったけど、何度も同じ失敗を繰り返すわけにはいかないわよ?」

指摘されたクリムは、失念していたと言わんばかりに固まった。

「それは……大丈夫なはずです! ……多分」

不安な要素が感じられる返答だったが、ルナは頬を掻くと、仕方がないといった風に肩を竦めてみせる。

「まあ、今回は私の責任でもあるし、足りなくなったら出してあげるわよ。――あっ、ドアは開けっ放しにしておいて。空気の入れ換えをしないと、煙臭くて仕方がないのよね」

ドアを閉めようとしていたクリムは、ルナにそう言われたためドアを開け放ったままホームへ入った。
廊下を通ってリビングダイニングへ入れば、あんなにすすだらけだった室内はすっかりピカピカになっていた。見違えた室内を見て、クリムが感嘆の声を上げる。

「うわぁ、すごく綺麗になりましたね!」

「師匠にも手伝ってもらったけど、これくらいは朝飯前よ。……でも、さすがに壁紙に染みついちゃった臭いまではどうしようもないのよね。ドアや窓だって、このままずっと開けっ放しってわけにもいかないし……。次の休みにハウスクリーニングでも頼もうかしら?」

「いっそのこと、壁紙を変えてみるのはどうですか? 可愛い柄にすれば気分転換にもなりますし」

買ってきた荷物をテーブルの上に置きながらクリムが提案すると、ルナは顎に指を添えながら「ん~……」と思案した。

「それはそれでいいかもしれないけど、ホームの内装って勝手に変えていいのかしら? 運営に問い合わせてみないとわからないわよね」

そこまで話していたところで、ホーム内に運営からの通知を知らせるアラームが鳴り響く。2人がすぐにミーティングルームへ向かったところ、モニター脇のランプが青く点滅していた。
ルナがモニターのスイッチを入れたところで、別の部屋にいたゼロもミーティングルームへ入ってきた。ディスプレイが点灯し、表示された明日のバトルに関する情報をルナが読み上げる。

「えっと、明日のステージは惑星デザートオーシャン。見渡す限り一面が砂漠の星で、砂地に足を取られやすい上に、他のステージと比較して極端に遮蔽物が少ないステージだそうです」

画面が切り替わり、今度は対戦相手の詳細が表示された。チーム名と、所属メンバーの一覧に書かれた名前を見て、ルナは右手の拳を己の左手に叩きつけた。

「やったわ! これでようやく、あの子に私たちの実力を思い知らせてやることができるわね!」

対戦相手はシャドウファング。フィオナが所属しているチームだ。ルナは闘志を剥き出しにしてすっかりやる気になっているが、そんな彼女とは違った意味で、クリムもまた喜びを露わにしていた。

「わぁっ、すごいタイミングです! それなら今夜のお夕飯は、フィオナちゃんとの交流会にしましょう!」

クリムが両手を上げてはしゃいでいるため、ルナとゼロは揃って顔を見合わせる。

「クリム、交流会って何のこと?」

ルナが疑問を口にすれば、クリムはニコニコと笑いながらそれに答えた。

「今夜のお鍋に、フィオナちゃんをお誘いしているんです!」

「ええっ!?」

ルナは驚いたが、すぐに額に手を当てると己を落ち着かせるようにブツブツと呟いた。

「まさか、あのフィオナが来るわけないし……。それなら別に、何の問題もないわよね」

「いえ、来るって言ってましたよ? 一旦ホームに戻ってから来てくれるそうです!」

クリムが明るい声で否定すると、ルナは目を見開いたまま表情を強張らせる。

「えっ……ちょっと待って。本当に来るの?」

「そうと決まったからには、力のつくお鍋にしないといけませんね! さっそく下ごしらえをしてきます!」

はりきってキッチンへ向かっていくクリムを、ルナが慌てて追いかけた。

「ちょっと待ちなさい! あなた、自分がどれだけのんきなことを言っているのかわかっているの!?」

廊下に出たところで腕を掴んで問いかければ、クリムは不思議そうに首を傾げている。それを見たルナは呆れ気味にため息を吐き出した。

「いい? フィオナは、明日の対戦相手なのよ? そんな子をホームに招き入れて、しかもご飯まで食べていくだなんて、こんな不用心な話は聞いたことがないわよ!」

「え? ……ダメ、ですか?」

クリムが目を丸くしている。ダメだと言われることなど、想像すらしていなかったのだろう。

「ダメに決まっているでしょ! ここは私たちのホーム、いわば拠点なのよ? チームの情報を得るのにこれ以上ないほどうってつけな場所に、わざわざ自分から敵を招き入れるだなんて……」

ルナが頭を押さえたのを見てクリムがおろおろしだす。

「で、でも、フィオナちゃんなら大丈夫ですよ! 良い人なんですから!」

「良い人って……だからあなたは危機感が足りないのよ! ほんの何回かしか会ったことがないのに、あの子の何がわかるって言うの!?」

怒鳴りつけられ、クリムはすっかり縮こまってしまう。ルナは己の気分を落ち着けようとしているのか、一度深呼吸をしてから言葉を続けた。

「いい? 世の中にはね、目的のためなら手段を選ばないようなやつもいるの。あのフィオナって子も、表向きは善人みたいに振る舞いながら、裏では平気で人を陥れるような悪人かもしれないのよ?」

これにはクリムもショックを受けたのか、丸い瞳を普段よりも鋭くして、睨むような視線をルナに向けてきた。

「そんな、酷いです! ルナちゃんは、フィオナちゃんが悪い人だって思っているんですか!?」

「例えばの話でしょ! 私は警戒心を持ちなさいって言ってるの! 相手の目的や願いを何一つ知らないのに、簡単に信用するのは危険なことなのよ!? あの子が勝利に固執するような子だったら、隙を見て私たちの食事に毒を入れるとか、武装に細工をすることだって有り得るんだからね!」

「フィオナちゃんはそんなことしません! ルナちゃんだって、フィオナちゃんとはほとんど話したことがないですよね? それなのに、初めから疑ってかかるなんて……そんなのおかしいと思います!」

クリムがいつになく声を荒らげたため、ルナもますますむきになって言い返す。

「おかしいのはあなたの方でしょ!? ホームに敵を招き入れるってことは、そういった危険を自ら引き寄せてしまうってことなのよ!? あなた1人の問題ならともかく、その危機感のなさがチーム全体を危険に晒すことがあるんだから! いい加減チームとしての自覚を持ちなさいよ!」

チームのことを持ちだされてはクリムも言い返せないが、それでもやはり納得できないらしくなおも言葉を続けようとしている。

「でも……でも、フィオナちゃんは……――――――あっ!」

クリムの表情が強張る。ルナも彼女の視線が自分の背後に向けられているのに気付いて振り返ったが、廊下の端に赤い包みを持ったフィオナが立っているのを認めて同じように口を噤んでしまう。

「フィオナちゃん、あの……これは……」

クリムはなんとか弁明しようとするも、上手く言葉が出てこなくて言い淀んでしまう。ルナもさすがにばつが悪いのか、いつものように彼女へ食ってかかることもない。重苦しい沈黙が漂うことしばらくして、無表情のフィオナがゆっくりと口を開いた。

「……言い争いをするのなら、戸締まりはしっかりとしておくことね。周りのリーガーに迷惑よ」

それを聞いた2人はハッとする。玄関のドアやリビングの窓を開けっ放しにしていたことを失念していたのだ。フィオナはおそらく、2人の言い争いを聞いてしまったのだろう。
ますます弁明の余地がなくなって無言になっているクリムに、フィオナは手にしていた赤い包みを押しつける。それは先日の弁当箱だった。

「私はただ、これを返しに来ただけ。もう用は済んだから、帰らせてもらうわ」

フィオナが踵を返してホームの外へ出ていったところで、クリムはようやく我に返って彼女を追いかけた。

「待ってください! フィオナちゃん!」

呼びかけるも、フィオナは歩みを止めない。クリムはそれでも必死に走り、やっと追いついて彼女の腕を掴んだ。

「フィオナちゃん、ごめんなさい! あんな話をしていたら、悪口を言っていると思われても仕方がないかもしれませんけど……でも、違うんです! ルナちゃんはただ、私の危機感が足りないことを指摘していて、フィオナちゃんのことはその一例として上げていただけで……」

クリムは必死に誤解を解こうと言葉を紡ぐが、振り向いたフィオナの返答は意外なものだった。

「気にしていない。だって、彼女の考えは当たり前のことだもの。何もおかしなことなんてないわ」

「……え?」

クリムは驚いたが、続くフィオナの言葉はさらに衝撃を与えるものだった。

「おかしいのはあなたの方。私はあなたの敵。敵相手に情けなんて無用。ましてや親しくしたり、信用するだなんて論外。敵に対しては、ルナスタシアのように警戒するのが普通なはずなのよ。……私には、あなたの言動こそが理解できないわ」

クリムの顔が青ざめていく。うつむいたその瞳には、うっすらと涙が滲んでいる。

「私は……私はただ、フィオナちゃんと仲良くなれたらいいなって……。せっかくお友達になれたんですから、もっとフィオナちゃんのことを知りたいなって思って……」

「私は、あなたの友人になったつもりはないわ」

突き放つようにきっぱりと言い切って、フィオナはクリムの手を振り払う。彼女の冷たい視線に射抜かれたクリムは何も言えず、ただ肩を震わせるしかなかった。
クリムから顔を背け、フィオナはさらに言葉を続ける。

「戦いに馴れ合いは必要ない。対戦が決まった以上、あなたは私の敵。容赦はしないわ」

そう言い残し、フィオナは立ち去っていく。クリムはそれ以上追うこともできず、遠ざかっていく彼女の背中を黙って見送るしかなかった。

~ つづく ~