コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 19 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

「えぇ!? あのフィオナに会ったの!?」

総合トレーニングセンター内の休憩室に入って早々、ルナは素っ頓狂な声を室内に響かせた。

「そうなんです。また助けてもらっちゃいました」

クリムがえへへと頬を掻けば、ルナは面白くなさそうに腕組みをしながらクリムが持つ黒い包みに視線を移す。

「だからって、自分のお弁当を渡しちゃうなんてお人好し過ぎるわよ。そもそも、何で助けられるようなことになったの?」

「それは……色々とありまして……」

突っ込んだ質問に、クリムは指先をつんつんさせながら口籠もる。

「何? あなたまさか、また誰かに騙されそうになっていたんじゃないわよね?」

ジト目で尋ねれば、クリムは大袈裟なまでに飛び上がった。

「ええっ!? ルナちゃん、どうしてわかったんですか!?」

予想通りの返事に、ルナの口から盛大なため息が吐き出される。

「やっぱり。――って言うかねぇ、ちょっと鎌をかけられただけであっさり白状するんじゃないわよ! そんなんだから簡単に騙されちゃうのに、クリムは本っ当に危機感が足りないんだから!」

「ご、ごめんなさーい!」

ルナの迫力に押され、クリムは半泣きになりながら頭を抱える。ルナはもう一度ため息をつき、手近にあった席にドカッと腰を下ろした。

「とにかく、被害に遭わずに済んだのは運が良かったわ。今回ばかりは、フィオナって子に感謝するべきなのかしら?」

それを聞いたクリムは、うんうん頷きながらルナの隣に座る。

「そう! そうですよ! フィオナちゃんのおかげで助かったんですから、これで良かったんですよ! お弁当も、ルナちゃんの大きいお弁当を持ってきたからこそ2人で半分こにすることができますし、結果オーライです!」

「調子の良いこと言ってないで、しっかり反省しなさいよね? 毎回都合良く助けてもらえるわけじゃないんだから、そのうち本当に騙されるわよ?」

「それは……そうですね。気をつけます」

しょんぼりするクリムを見て、ルナはこの話は終わりとばかりにパンパンと手を叩く。

「それじゃあ、さっさと食べちゃいましょう。もたもたしていると訓練の時間がなくなっちゃうわ」

「はい! いただきまーす!」

両手を合わせて挨拶し、揃って卵焼きに手を伸ばす。ルナは口に放り込むとすぐに頬を押さえて相好を崩した。

「ん~、甘くてふわふわ! こんなにおいしい卵焼き、初めて食べたわ! さすがはクリムね!」

「えへへ。ルナちゃんに褒めてもらえると、なんだか照れちゃいます」

「バトルはともかく、料理だけは安心して任せられるわ。――んっ! このコロッケも、衣がサクサクしておいしい! ポテトに、野菜に……あっ、挽肉も混ぜ込んであるのね!」

「はい! やっぱりコロッケは、揚げたてが一番おいしいですよね! ルナちゃん、どんどん食べてください!」

食事を摂る2人は、年相応の少女らしい和気あいあいとした雰囲気を放っていた。


その日の夕方。シャインスターズのホームの前にフィオナが立っていた。彼女は赤い包みを手に持ちながら、思い悩んでいるような複雑そうな表情でドアチャイムを見つめている。
ジッと立ち続けること数分後、フィオナはようやく右手を持ち上げてチャイムを鳴らした。しかし誰も出てこないため、フィオナはもう一度チャイムを押したのだが、反応はなぜか背後から生じてきた。

「あっ! ちょっと、何であなたがここにいるのよ!?」

振り向いたフィオナは、背後にルナの姿を認めて彼女に尋ねる。

「クリムローゼは?」

その質問に、ルナは怪訝そうな表情を浮かべた。

「師匠と一緒にランニングよ。あの子に何か用でもあるの?」

「別に。あなたには関係ないわ」

「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」

立ち去ろうとするフィオナをルナが咄嗟に呼び止める。

「今日、複合施設エリアでクリムを助けてくれたそうね?」

「私は助けたつもりはないわ」

素っ気ない答えに、ルナの口からため息が漏れる。

「あなたにそのつもりはなくても、結果として助けてくれたのは事実なんでしょ? とにかく、あれよ。チームメイトを助けてもらったんだから、私もあなたに……その、一言言っておかないとね。あ、あっ、あり…………」

ルナが口籠っているのを見て、フィオナは不思議そうに首を傾げている。

「顔が赤いわ。呂律も回らないようだし、熱でもあるの?」

「違うわよ! 助けてくれた礼を言おうとしたのよ!」

それを聞いたフィオナは、心底意外そうに目を丸くした。

「礼? あなたが? …………想像できないわ」

「うるさいわね! あ~もうっ、やめやめ! せっかく素直に礼を言おうと思ったのに、やっぱりあなたとはそりが合わないわ!」

肩を怒らせながらホームに入っていくルナを、フィオナは首を傾げながら見送った。


夜になり、ルナは食事の支度が整ったところでフィオナの来訪をクリムに伝えた。

「ええっ!? フィオナちゃんが、わざわざ来てくれていたんですか!?」

クリムは驚きのあまり、ゼロのオイルを注いだグラスを手放してしまう。

「うわっ! クリム、危ないぞ!」

落下したグラスは、ゼロがダッシュでキャッチしたことで事なきを得た。

「す、すみません……。それで、私に何の用事だったんですか?」

「さあ? 聞いてみたけど、別にって言ってさっさと帰っちゃったわよ」

驚き半分、嬉しさ半分といった具合で食卓から身を乗り出していたクリムだったが、ルナの返事に落胆して椅子に座り直す。

「そうですか……何の用事だったんでしょうね? 遊びに来てくれていたのだとしたら、フィオナちゃんに悪いことをしてしまいました」

「あの子が遊びに? まさかぁ……ただでさえ他のリーガーなんか眼中にないって感じなのよ? 誘ってもいないのに来るわけないでしょ」

「それじゃあ、他に何があるんでしょうか。もしかしたら、知らない間にご迷惑をかけていたのかも……」

思い悩むクリムを見て、ゼロはグラスを脇に置くと優しく声をかけた。

「あれこれと心配しても仕方がない。大事な用ならば、きっと向こうから来てくれるはずだ。そのときに聞いてみればいいだろう」

「そうですよね……そうします!」

クリムはゼロの助言に元気を取り戻したらしく、微笑みながら頷いてみせた。


それから4日後の休日。シャインスターズは各々で自由な時間を過ごしていた。
ホームにある小さな庭では、ゼロが手入れを終えたロングソードを振り回している。愛剣の感触を十分に確かめたところで、彼は満足げに頷いて剣を収めた。

「うむ。このくらいで良いだろう」

呟いて、空を見上げる。本日の環境設定は快晴であり、外壁によって調節された陽光がコロニー内部にさんさんと降り注いでいる。
ゼロのイエローのボディが、暖かな日差しを受けていつも以上の輝きを放っていた。彼のボディは太陽光を受けることでエネルギーを生産するため、こうしてひなたぼっこをしているだけで自然とチャージされるのである。
淡く発光するその肩に、どこからか飛んできた小鳥が止まった。ボディがポカポカと熱を発しているためか、小鳥はゼロの肩で気持ちよさそうに休んでいる。その姿を眺めたゼロは、再び空を仰いで感慨深げに呟いた。

「実に穏やかだ。やはり平和とは良いものだな」

ゼロは小鳥と一緒にひなたぼっこを続けていたが、しばらくして開け放っていた窓からドアを開く音が届いてきた。誰かが帰ってきたらしい。

「クリム、何か食べるものはないかしら? すっかりおなかが空いちゃって……あら? クリムー、いないのー?」

ルナの声だ。ゼロがリビングに戻ろうと歩き出したところで、驚いた小鳥が飛び立ってしまう。ゼロは名残惜しそうに小鳥を見送ってから、リビングに入ってルナを迎えた。

「おかえりルナ。クリムは夕食の食材を買いに行っているぞ?」

窓を閉めながら伝えれば、ルナは時計を見つめながら難しそうな顔をする。時刻は午後3時になろうというところで、小腹が空いてもおかしくはない頃だ。ルナはトレーニングをこなす分普段からよく食べるため、本当におなかが空いているのだろう。

「それなら、クリムが帰ってくるまで待つことにします」

ルナはそう言って我慢を決めたが、すぐに腹の虫がぐぅと鳴いたためおなかを押さえて赤面する。

「その様子では待てないだろう? 少しは食材も残っているだろうし、自分で作って食べたらどうだ?」

ゼロが提案してみると、ルナは表情を引きつらせながら己を指差した。

「わ、私が……自分で作るんですか?」

「私は食事を必要としないから詳しくは知らないが、料理というものは適当に切って焼くだけだろう? クリムでもできるのだから、ルナならもっと豪華なものが作れるのではないか?」

「とっ、当然です! 料理くらい、私にかかれば朝飯前ですよ!」

ルナはバタバタと足音を立てながらキッチンに入ると、クリムのエプロンを身につけて包丁とニンジンを手に取った。そうして用意したまな板の上にニンジンを置き、両手で握り締めた包丁を頭上に掲げた。

「たぁ――――!」

かけ声とともに振り下ろせば、ニンジンはまな板ごと真っ二つになって左右に吹っ飛んだ。まな板の破片が凄まじい勢いでゼロの顔の真横を飛んでいき、背後の壁にぶつかって思いっきり凹ませる。

「る、ルナ……?」

ゼロのロボアイが激しく明滅しているのを見たルナは、包丁を流しに置くと取り繕うように両肩をぐるぐると回してみせた。

「いっ、今のはあれです! 準備運動です!」

「まな板が……」

「まな板がなくても料理はできます! 例えば……そう! 卵料理ですよ!」

手にしたボールに冷蔵庫から取り出した卵をぶつけた瞬間、砕けた殻とともに白身や黄身があちこちに四散した。

「ルナ……」

「大丈夫です! ちゃんとボールの中にも入っていますから!」

ルナは殻が入ったままの卵をグチャグチャとかき混ぜると、戸棚から取り出したフライパンをガステーブルに乗せた。

「とぅ!」

かけ声とともに、一気に最大火力までつまみをに捻り上げた途端、ガステーブルから火柱が上がってフライパンが黒焦げになる。

「ルナ!? フライパンから煙が出ているぞ!?」

「だだっ、大丈夫です! 卵を入れればマシに――――ぎゃー! 炭になったぁ!」

卵は投下した瞬間に炭化し、黒煙をもくもくと立ち上らせる。

「ルナー!」

「あ、油を入れなかったからかしら? 入れれば今度こそマシに――――ぎゃああ! 燃えたああ!」

「ルナあぁぁ!」

「消火器! 消火器はどこー!?」

昼間だというのに真っ暗なリビングに、ドタバタという足音と師弟の悲鳴がこだました。
それから十数分後。

「ただいま戻りましたー!」

玄関を開けたクリムがにこやかに廊下を進んでいく。

「良いお肉とお野菜が手に入ったので、今夜はお鍋です! ルナちゃん、いっぱい食べてくださいね!」

クリムは食材の入った紙袋を抱えながら上機嫌にリビングダイニングのドアを開けるが、中の様子を見た途端、ニコニコ顔は一瞬にして呆けたものに変わり、すぐにクリムの口から悲鳴が上がった。

「きゃー! ええっ!? ななっ、何があったんですか!?」

一面すすだらけなリビングに、真っ白に染まったキッチン。シンクの傍らには消火器が転がっており、リビングの中央では、白と黒のまだら模様になったルナとゼロが向かいあう形で土下座しあっていた。

「師匠の前だからって見栄を張りました! 本当は料理が苦手なんです! 申し訳ございません!」

「いいやルナ、謝るのは私の方だ! 切って焼くだけなどと言ってすまなかった! 料理というものは奥が深いのだと、私はつくづく思い知ったぞ!」

「……あの、何ですか? なんだかすごいことになってますけど……」

1人置いてきぼりとなっているクリムには、ルナが反省とばかりに正座で状況を説明した。

「――――と、言うわけで……全部、私がやりました」

うなだれるルナの姿を見て、クリムは目を丸くしながら呟く。

「まさかしっかり者のルナちゃんが、お料理が苦手だったなんて意外です」

改めてリビングを見渡したクリムは、部屋の惨状に怒ることなく、むしろ安心したようにホッと胸を撫で下ろしている。

「何はともあれ、お2人に怪我がなくて良かったです! 調理器具はまた買ってくればいいですし、お部屋もお掃除すれば元通りになりますよ!」

「うう……ごめんねクリム……。こうなったからには、私が責任を持ってこの部屋を綺麗にするわね」

さっそく立ち上がったルナを、クリムが心配そうに見つめている。

「でもルナちゃん、こんなに汚れているのに大丈夫ですか? 1人ではすごく手間がかかりそうですけど……」

「健全な精神は己を律することで宿る。これは蒼い月の民のモットーよ。掃除や整理整頓はできて当たり前なんだから、ちゃんと元通りにしてみせるわよ」

ルナが自信満々に胸を張るのを見て、クリムは素直に感心したらしく拍手を送っている。

「さすがルナちゃん、とても立派な心がけです! ……でも、そんなモットーがあるのに、どうしてお料理は苦手なんですか?」

クリムは何気なく尋ねたつもりだろうが、どうやらそれは禁句だったらしい。ルナは一瞬固まった後、頭を抱えながら悶絶した。

「あーもうっ、いちいちまどろっこしいのよ! 皮むきだのみじん切りだのとろ火で煮込むだの! もっとバッとかガッとか勢いよくできればいいのに、どうしてちんたら手間暇かけなきゃいけないのよー!?」

「クリム! ここは私たちで片付けるから、君は調理器具を買ってきなさい!」

「はっ、はいぃ!」

暴れるルナをゼロが押さえているうちに、クリムは逃げるようにホームを出て複合施設エリアへと向かった。

~ つづく ~