コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 17 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

バトルが終了した3人は、ホームには戻らずにセントラルロビー最上段の広場へ向かった。そこにはスペシャルマッチ観戦用のディスプレイが設置されているため、他チームの情報収集のためにも見ておくべきだとゼロが言ったのだ。そのため3人は、疲れた体を押して広場を訪れたのであった。
そうしてエレベーターを降りた3人は、広場に入ってすぐのところに中継用とは別のディスプレイが設置されているのに気付いた。

「これは何でしょうか?」

クリムが首を傾げながらゼロに尋ねる。そこには様々なチーム名が順番に羅列されていた。

「どうやら、現在のランキングを表しているようだな。我々の順位は……」

3人で目を皿のようにして探していると、ランキングの中央付近にシャインスターズの文字を見つけた。チーム名の左側には上向きの緑の矢印が描かれており、そこにはさらに『20UP』という文字が記されていた。

「ってことは……20位もランキングが上がったってことですか!?」

「どうやらそうらしいな。これも君たちの働きの成果だ」

「うわぁ、すごいです! すっごく嬉しいですね!」

3人とも喜んだが、中でもクリムは大はしゃぎだった。ピョンピョン跳びはねながら喜びを露わにしていたが、周囲には観戦中のリーガーやランキングを見に来ているリーガーが沢山いる。クリムは案の定、背後にいた人にぶつかってしまった。

「きゃっ! ご、ごめんなさい!」

「もう、何をやってるのよ」

頭を下げているクリムを見て、ルナもまたチームメイトが迷惑をかけたことを謝罪するべく駆け寄った。しかし振り返った相手の姿を見た途端、ルナの目つきは一気に鋭くなった。
クリムも顔を上げると、目の前にいる相手を見てすぐに驚きの声を上げた。

「あっ! あなたはあのときの!」

水色の瞳と髪。身の丈以上のレールガン。またしても顔を合わせることになり、ルナは因縁めいたものを感じずにはいられなかった。

「この前は、よくも馬鹿にしてくれたわね。でも、いつまでもこけにされるような私たちじゃないわよ?」

そう言うと、ルナはクリムを自分の方へと引き寄せた。

「どうせ私たちの試合も見ていたんでしょ? 師匠は言わずもがな、クリムだって本気を出せばすごい力を持っているんだから。もう二度と、誰にも3分間タイマーだなんて呼ばせないわよ?」

強気な口調で挑発すれば、少女は相変わらずの無表情のまま、視線だけを3人それぞれに向けて口を開いた。

「……そうね。思っていたよりも動けるみたい。でも、それだけ。あの程度の実力なら、あなたたちは私の敵じゃないわ」

「何ですって!?」

またしても癪に障る言葉に掴み掛かろうとしたが、それはゼロに抑えられた。睨むルナを、少女は眉ひとつ動かさずに見つめる。

「これからバトルだから、無駄話に付きあっている暇はないの。さよなら」

そう言って、少女はエレベーターの方に向かって歩き出した。ルナは遠ざかっていく背中を睨みながら悔しげに地団駄を踏む。

「まったく! 本当にいけ好かないやつ! いっつも人のことを馬鹿にするんだから!」

「そうですか? 敵じゃないって言ってくれましたし、いいお友達になれそうですよ?」

憤慨しているルナとは対照的に、クリムはニコニコと笑っている。それを見たルナはすっかり呆れてしまい、頭を押さえながら大袈裟にため息を吐き出した。

「あれは皮肉を言われたのよ? ほんっと、クリムには嫌味が通じないんだから……」

そののんきさがある意味で羨ましく、ルナはもう一度深いため息をついた。

「ルナ、あの少女は何者だ? 知り合いか?」

ゼロに尋ねられ、ルナはそっぽを向く。

「知りません! 顔を合わせる度に嫌味を言ってくる、嫌な奴です!」

ルナはそう言うが、クリムがニコニコしながら説明を加えてきた。

「私が迷子になったときに、ルナちゃんと一緒に助けてくれたんです。私は良い人だと思いますけど……そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたね?」

クリムが首を傾げる。ルナもすっかり失念していたが、たしかに何度も顔を合わせているのに、2人は少女のことは何一つ知らないままだ。

「次のバトルだって言ってたし、それで何かわかるでしょ。いい機会だから、あいつがどれだけ動けるのかチェックしてやろうじゃない」

余裕の笑みを浮かべたルナだったが、いざ彼女のバトルが始まったとき、広場のギャラリーはその姿に釘付けとなった。
少女のチームはグレイシアでのバトルだった。仲間から離れ、1人駆ける彼女は身に纏っている白いボディスーツを保護色に、雪に紛れながら狙撃ポイントへと移動していく。そうして仲間が敵と接触して数分後、タワーを見下ろせる崖の上からレールガンを構えて狙いをつけた。
カメラが画面いっぱいに少女の姿を映し出す。銃口に光が集まり、彼女の口が微かに動いた。

「ジャッジメント・レイ」

呟いた瞬間、白く細いレーザーがレールガンから射出される。鋭い射撃は寸分違わず鉱石を打ち抜いて、タワーのバリアを解除した。

『これはこれは、シャドウファングのフィオナ選手! 正確無比な狙撃で鉱石を破壊しました! 果たしてタワーを破壊できるでしょうか!? それとも防ぎきれるのでしょうか!? 一瞬たりとも、目が離せません!』

敵の防衛部隊が射撃位置を特定して、次々とミサイルを発射してきた。フィオナと呼ばれた少女は後方に飛んで避けながら、レールガンの銃口を青白く輝かせる。

「トリプルロック」

銃口を再びタワーに向ければ、3つの青白い光輪がタワーに重なり合う。フィオナは逃げる足を止めると、両足でしかと地面を踏みしめて引き金を引いた。
銃口から、先ほどとは異なる巨大な光球が立て続けに射出される。3つの光球はバチバチと爆ぜながら一直線に飛んでいき、次々とタワーに命中して派手に爆発した。
崩れていくタワー。ざわめくギャラリー。長距離からわずか3発でタワーを破壊した少女は、戦果にもかかわらず涼しげな顔で狙撃の構えを解いた。まるで、こうなるのが当然だとでも言うかのように。

『なんということでしょう! フィオナ選手、鮮やかな射撃であっという間にバトルを終わらせてしまいましたぁ!』

実況するソプラも興奮を隠せないようで、言葉の一つ一つに熱が籠もっている。それが伝播したのか、クリムも両手を握り締めながら、頬の紅潮した顔を輝かせた。

「すごい……すごいです!」

「うむ。射撃の正確さだけでなく、高威力の砲撃も持っているとは。この実力なら、あの子がいるチームはすぐにプライムリーグへ上がるだろうな」

クリムだけでなく、ゼロすらもフィオナの実力を高く評価した。ルナはそれらを否定したくとも、やはり射撃の腕前はかなりのものだと認めざるを得なかった。

「でも、いくら実力があるからって、先を越されてたまるものですか!」

滾る気持ちがルナを急き立てる。もはやジッとしてなどいられなくなり、ルナは隣にいたクリムの手を掴んで掛け出した。

「る、ルナちゃん!? どうしたんですか!?」

「特訓するに決まってるでしょ! 私たちも負けていられないわ!」

とまどっていたクリムだが、それを聞くとすぐに表情を引き締めて力強く頷いた。

「はい! 頑張りましょうね、ルナちゃん!」

これからの巻き返しを決意して、2人は広場を駆け抜ける。そんな2人の姿を、ゼロは遠くからそっと見守っていた。


セントラルロビー3層目の、複合施設エリア。
シャインスターズは本日のバトルがないため、ルナはクリムを伴ってショッピングモールを訪れていた。

「これとこれ! あっ、あとこれも! 全部カートに乗せて頂戴!」

「る、ルナちゃん……そんなに沢山いいんですか?」

はりきるルナの姿を、クリムは1歩下がった場所から遠慮がちに見つめている。ルナは物怖じしているクリムを見て、呆れたようにため息をついた。

「何を遠慮しているの? この私が、ファイトマネーで奢ってあげるって言ってるんだからね。さあ、クリムもどんどん選びなさい!」

ルナは両手を腰に当てながら得意そうに胸を張っているが、その背後に山と積まれているものを見ているクリムは、違和感から口を挟まずにはいられないようだった。

「でも、どうするんですか? こんなに沢山お野菜を買って……」

ルナが買い求めているのは、流行のアクセサリーや実用性抜群の武器弾薬などではなく、野菜だった。
クリムに尋ねられたルナは、今さら何を言うのかと言いたげに小首を傾げて見せた。

「そりゃあもちろん、あなたの故郷に送るために決まっているじゃない」

「えっ!? これを全部、ですか!?」

「当たり前でしょ。でも……そうよね。たしかに野菜ばかりだとバランスが悪いわよね。ちょっとあなた、今度は精肉コーナーに案内して頂戴!」

言うが早いか歩き出したルナを、野菜の載ったカートを押した従業員ロボが慌てて追いかける。そうやって野菜や肉、米や卵、さらには小麦粉や砂糖といったものまでも買い付けたルナは、先日のスペシャルマッチで獲得したファイトマネーがまるごと消えてしまう金額を前にしても、まったく怯むことなく支払いを済ませた。

「これだけあれば、少しは足しになるかしら?」

ルナはようやく満足したが、クリムはまだ不安そうだった。

「ルナちゃん、本当にいいんですか? それに……こんなに買ってもらっても、故郷に届く頃には傷んでしまいますし……」

クリムは正直に心配事を口にしてきたが、ルナはふふんと笑うとまたしても胸を張った。

「あなたは知らないでしょうけど、今の科学はこれくらいの食料なんて簡単に加工できるのよ! ほら!」

そう言って見せたのは、缶詰にレトルトパウチ、フリーズドライ、他にも様々な加工が施された食料の数々だった。初めて目にするそれらの食料を前にして、クリムはわかりやすく瞳を輝かせている。

「うわぁ……すごいです!」

「でしょ? 生ものだって加工すれば、半年や1年くらいは余裕で保つんだから。これなら腐らせる心配もなく、安心して食料を届けられるでしょ?」

そこまで話したところで、ルナは少しばかり真剣な表情になった。

「……コスモピースを手に入れるにしても、時間がかかるでしょ? だからせめて、ここで手に入れた食料を送ってあげれば、少しは故郷の人たちの足しになるんじゃない? ……なんて、余計なことをしちゃったかしら?」

ルナは心配になってクリムに視線を向けたが、それは杞憂だったようだ。クリムは感激したように瞳を潤ませると、ブンブンと首を振った。

「そんなことありません! とっても嬉しいです! やっぱりルナちゃんは優しくて、とても素敵なお友達ですね!」

そのまま抱きつかれ、ルナは気恥ずかしさから頬を掻きながらも微笑んだ。
クリムはもう気にしていないようだが、それでもルナにとっては、あの日クリムを傷つけたことへの罪悪感がずっと胸を占めていたのだ。これで少しは罪滅ぼしになっただろうかと内心でホッと胸を撫で下ろし、ルナはクリムの背中をポンポンと叩くと明るく拳を振り上げた。

「それじゃあ次は、この食料を加工工場へ持って行くわよ!」

「はいっ、ルナちゃん!」

2人ははりきって工場へ赴き、すべての食料に様々な加工を施してもらった。ここでの支払いはクリムが持ち、続く配送時には2人の残金をすべて使って支払った。
そうしてすべての工程は終了し、食料を積んだロケットがクリムの故郷に向けて出発する。2人は広場でそれを見送りながら、故郷の人々が喜ぶ姿を思い浮かべた。

「ルナちゃん。私、頑張ります」

クリムが呟く。

「もっともっと頑張って、絶対にコスモピースを手に入れてみせます! 私の願いとルナちゃんの願い、必ず叶えましょうね!」

ガッツポーズをするクリムの姿は、初めて出会ったあの頃よりも随分と逞しく感じられた。まだほんの2週間とちょっとだというのに、彼女はここで、確実に成長していた。
自分も負けてなどいられない。チームメイトであり友人でもあるクリムの成長を喜びながら、ルナもまた決意を新たにするのだった。

「ええ! まずはプライムリーグ入りを目指すわよ! クリム、ついてきなさい!」

「はい、ルナちゃん!」

はりきって駆けていく2人の頭上では、コスモピースが煌めいていた。

その後数日間のバトルにおいて。所持金を使い果たしてしまった2人は消耗した装備の補充ができず、また食料も買えないために空腹で力が出ず、揃ってゼロの足を引っ張りまくってしまうのだった。

~ つづく ~