コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 15 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

「いたた……――ああっ、ルナちゃん!」

起き上がったクリムがルナのもとに駆け寄ってくる。ルナはネットを切断しようと大剣で切りつけるが、接触した途端に刀身がネットに張り付いてしまう。

「何よこれ、ベタベタくっつくばかりで切れないじゃない!」

ルナは大剣を引き離そうと左手でネットを掴むが、今度はその手までくっついてしまいどんどん身動きが取れなくなっていく。クリムはもがくルナの姿を前にしながらもどうすることもできず、しゅんとして座り込んでしまう。

「ルナちゃんごめんなさい……私がうっかりしたせいで……」

「そんなことを気にしている場合じゃないわ! 私のことはいいから、クリムは今すぐここから離脱しなさい!」

そう告げれば、クリムはわけがわからないと言いたげに首を傾げる。ルナは周囲を警戒しながら説明を加えた。

「設置型のトラップが発動したんだから、誰かが偵察のためにここへ来るはずよ! ここにいると知られた以上は奇襲もできなくなっちゃったし、こうなったら迎撃態勢を整えられる前にタワーへ攻め込むのよ! 敵が私に気を取られている今のうちに!」

「でも、ルナちゃんはこのままじゃ撃墜されちゃうじゃないですか! それがわかっているのに、置いていくなんてできません!」

クリムが追い縋ろうとしてくるが、ルナはキッと睨みつけると突き放すように強い口調で怒鳴った。

「馬鹿ね! ここで2人とも撃墜されたら負けなのよ!? 私がわざわざ囮になってあげるって言ってるんだから、あなたはさっさとタワーを壊しに行きなさい!」

「でも……」

「心配されなくても、こんなネットくらいすぐに脱出してみせるわよ! さっさと行きなさい!」

「わ、わかりました……」

クリムはようやくブースターに点火させて浮かび上がった。

「ルナちゃん、気をつけてくださいね!」

そうして飛び立っていくクリムを見送ってから、ルナは再びネットを壊しにかかった。直接触れるのがダメならばと今度はガトリングビットを連射してみるが、耐久値が高いのかなかなか破壊には至らない。

「もう、鬱陶しいわね! レギュレーション的には破壊できるはずだけど、解除にコツがあるのかしら……」

ブツブツと呟いていたそのとき、背後から砂利を踏む音が聞こえてきた。

「おっ! しっかり引っかかってるだらぁ!」

「1体だけビィか? もう1体はどこに逃げたビィ?」

聞こえてきた声は2つ。タワーに向かっていった敵の数は2つ。となれば、敵タワーの防衛には1人しかいない。これならクリムでも、頑張れば突破が可能かもしれない。ルナは心の中でホッと胸を撫で下ろした。

「慌てることはないらぁ! こいつを倒した後、3人で残りの1人をたこ殴りにすればいいだらぁ!」

舐めてかかる敵に対して、ルナは「ふん」と鼻を鳴らすと余裕の笑みを浮かべながら振り向く。

「あなたたちくらい、私が返り討ちにして、や、る……ん!?」

敵の姿を見た途端、ルナの表情が思いっきり引きつった。

「ひっ――――虫ぃ!?」

背後から近づいてくるのは、武器を持つ両手と6本の蠢く足――合計8本の足を持った蜘蛛を思わせるロボと、黄色と黒の特徴的な体色に2本の触覚という、どう見ても蜂にしか見えないロボだった。

「ちょっ、来ないで! 近寄らないで!」

ルナが顔を青ざめさせながら必死に懇願すると、それを見たロボたちは愉快そうに笑い出した。

「けっけっけ! 撃墜されるのが怖くて震えてるだらぁ! やっぱり女の子だらぁ!」

その言葉に馬鹿にした響きを感じ取り、カチンときたルナは反射的に怒鳴り返した。

「違うわよ! 私は虫が大っ嫌いなの! だから近づいてほしくないだけよ!」

「虫だとぅ!? 俺は誇り高いビー族の戦士だビィ! ただの虫と同じ扱いをされるのは我慢ならないビィ!」

「生意気なやつだらぁ! お前みたいな礼儀知らずには思い知らせてやるだらぁ!」

ロボたちはルナの言葉に憤慨し、各々の武器を振り上げながら飛びかかってくる。身動きが取れないルナは、虫への苦手意識から両手で頭を抱えながら縮こまることしかできなかった。

「来ないでってば! 嫌ぁ――――っ!」

もはや撃墜されるのを待つのみかと思われたそのとき、上空から飛行音が急激に近づいてきた。

「ルナちゃんに近づかないでください!」

聞き覚えのある声に顔を上げたそのとき、クリムの跳び蹴りが蜘蛛型ロボに直撃した。吹っ飛ばされた蜘蛛型ロボは、すぐ近くにいた蜂型ロボを巻き添えにしながらゴロゴロと地面を転がっていく。
ルナはクリムの姿を認めると、瞳を大きく見開きながらとまどいの声を上げる。

「くっ、クリム!? あなた、どうして戻ってきちゃったのよ!?」

「だって、やっぱりルナちゃんを置いては行けませんよ! それで戻ろうと思って飛んでいたらルナちゃんの悲鳴が聞こえてきて、居ても立ってもいられなかったんです!」

「ば、馬鹿! だからって、こんなときに戻ってくるなんて……」

ルナとしては助かったのは事実だが、相手は2体だ。ルナはいまだネットに捕らわれている以上、クリムをフォローすることはできそうにない。ただでさえ1対2という不利な状況なのに、ロボたちは先ほどの攻撃によってますます怒りを露わにしているではないか。

「よくもやっただらぁ! わざわざ戻ってくるたぁ、飛んで火に入る夏の虫とはお前のことだらぁ!」

「先にお前からやってやるビィ!」

案の定、2体は身動きの取れないルナを無視してクリムを標的にした。
蜘蛛型ロボが銃を構え、蜂型ロボがレイピアを持って突進してくる。クリムはすぐに空中へ浮かび上がったが、蜂型ロボはクリムと同じエアリアルだったようで高度を上げてもついてきた。

「おりゃあ!」

「わわっ!」

クリムはレイピアによる刺突を左右に飛んで避けるが、相手はエアリアルなだけあって空中での機動性が高い。さらなる追撃から逃れている間にブースターのエネルギーが限界を迎え、クリムの高度が落ちたところで今度は蜘蛛型ロボが発砲してくる。大きな球体の銃弾がクリムに向かって放たれたかと思えば、それはすぐに展開し、大きなネットとなって飛んできた。

「ひゃあっ! っと……危なかったです」

すんでのところで右に飛び込んで避けたクリムだが、ホッとする間もなく蜂型ロボが突進してきた。

「ニードルスプラッシュ!」

蜂の巣型の特殊な形状をした銃から無数の針が射出され、クリムに向かって雨あられと降り注ぐ。クリムは必死に飛び回りながらそれも避けるが、ロボたちは地上と空中の双方向からクリムを追い詰めるべく容赦のない攻撃を繰り返す。
しかしクリムは、「よいしょっ!」などといったかけ声を発しながらひたすら攻撃を避け続けていた。軽快な動きにルナは驚きを隠せず、またロボたちも焦りを見せ始める。

「どういうことだらぁ!? こいつらは3分間タイマーって呼ばれているんじゃなかっただらぁ!?」

「こんなに動けるとは予想外だビィ!」

上下左右。空間をフルに使って立体的な回避運動を行うクリムを見て、ルナは誰に聞かせるでもなく独り言ちる。

「もしかして……昨日の訓練が、もう実を結んだってこと?」

ルナの脳裏にゼロの言葉が浮かんだ。

『この子はとても純粋で素直だ。だからこそ、経験さえ積めばそう遠くないうちに戦果を上げられるはずだ』

その言葉が今、現実のものになっている。あんなに痛い思いをしたのに、ルナに言われたことを一生懸命実践しているクリムの姿を見ているうちに、ルナも体の奥から力が湧いてくるような気がしてきた。

「クリムがあんなに頑張っているのに……私がこんなところで、手こずっているわけにはいかないわ!」

ルナはネットを両手で掴むと、左右に向かって力いっぱい引っ張った。
ブルームーンブレイドを使いこなすために、ルナはこの3年間、腕力やそれに付随する筋肉を重点的に鍛えてきた。この程度のネットくらい、破れなければ話にならない。

「とぉりゃあああ――――――!」

雄叫びとともにネットが裂け、ルナは見事にネットの破壊に成功した。

「やったわ! あとは剣さえ取り出せれば!」

大剣はいまだに張り付いたままだ。ルナはそれも引き抜こうとするが、ゴソゴソと動く気配に蜘蛛型ロボが気付いてロボアイを向けてきた。

「むむっ!? あいつ、いつの間に抜け出したらぁ!?」

蜘蛛型ロボは標的をルナに変更して走り出す。

「目障りだらぁ! こうなったらお前から先にやってやるらぁ!」

「ルナちゃん!」

クリムの声でロボの接近に気付き、ルナはすぐにガトリングビットを乱射する。しかし蜘蛛型ロボは、多足によるトリッキーな機動で避けながら確実に距離を詰めてきた。

「くっ……」

現状を考えれば、ガトリングビットがあるのだから剣を捨てて迎え撃つべきだ。だがルナには、大剣を置いていくという選択肢は存在しなかった。これは他の何ものにも変えられない、兄が残してくれた唯一の繋がりなのだ。

「ルナちゃん、今助けに行きます!」

クリムが飛び出すが、その前に蜂型ロボが立ち塞がった。

「お前の相手は俺だビィ! ニードルスプラッシュ!」

至近距離からの発砲だ。これでは直撃は免れないと、蜂型ロボは勝利を確信したことだろう。

「クリム! 避けてー!」

ルナが自分の危機すら忘れて叫んだそのとき、クリムのブースターが一際強い炎を放った。

「ティアリングダイブ!」

まるで消えたかと錯覚するほどの急降下で、クリムは敵の攻撃を避けた。蜂型ロボはクリムの姿を完全に見失い、地上に降りたクリムは低空飛行で加速しながら蜘蛛型ロボを追いかける。

「ルナちゃんは、私が守ります!」

クリムが急激に距離を縮めていくが、蜘蛛型ロボは余裕な様子で彼女へと銃口を向けた。

「間抜けだらぁ! 猪みたいに突っ込んできて、良い的だらぁ!」

ハンドガンからネットが射出され、クリムの眼前に展開される。しかしクリムはビームレイピアを構えると、まっすぐに突き出しながらためらうことなく加速した。全身がネットに包まれるが、勢いづいた体は止まることなく一直線に蜘蛛型ロボへ突進していく。

「なっ!? そんな馬鹿なぁ!」

蜘蛛型ロボが後退を始めるが、遅かった。

「クリムゾンラッシュ!」

ビームレイピアの刺突をまともに食らい、吹っ飛ばされた蜘蛛型ロボが盛大にスパークする。ルナとクリムを覆っていた敵のネットはその瞬間に解除され、ルナは自由を取り戻した愛剣を握り締めると残る蜂型ロボへ鋭い視線を向けた。

「形勢逆転ね! 2対1よ、覚悟しなさい!」

「くっ、ここは一旦引くビィ!」

ロボは不利を悟ったようで、すぐに背を向けて逃げ出した。

「逃がしません!」

クリムはすぐに追撃しようとしたが、先ほどの攻撃でエネルギーを消費しておりすぐにブーストが解除されてしまう。今度はビームガンでの射撃に切り替えたが、元々の射撃の腕に加えて距離があるせいでちっとも当たらない。

「はっはっは! どこを狙っているビィか! ははっ……――――はっ!?」

余裕を見せていたロボは、地上を高速で駆けるルナの姿にロボアイを激しく明滅させた。ルナはアクセルバウンドで一気に飛びかかり、大剣を振り上げる。

「害虫駆除よ! 覚悟なさい!」

「ぶべっ!」

上段打ち下ろしがロボの脳天を直撃し、思いっきり地面へと叩きつける。そうしてスパークしたロボを一瞥したルナは、身震いしながら深いため息をついた。

「うぅ……もう虫型ロボはこりごりだわ……」

~ つづく ~