コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 13 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

ルナの兄がコスモリーグへの参加を表明したのは、族長との力比べを終えてすぐのことだった。それは今から5年前。兄が16歳、ルナが11歳のときのことだ。
初参加でありながら、兄はたったの1シーズンでプライムリーグへ昇格し、4シーズン目にはマスターリーグへ到達していた。ルナは兄のバトルが中継される度にモニターの最前列を陣取って、瞳を輝かせながらその勇姿を眺めていた。
兄の勢いは留まるところを知らず、コスモリーグ2年目にしてとうとうシーズンチャンピオンにまで上り詰める。しかし上には上がいるもので、マスターチャンピオンにはあと一歩及ばなかった。それでも十分な成果であると、兄はその年のリーグバトルが終わると2年振りに故郷へ帰ってきた。
一族は総出で兄を出迎え、すぐに宴会の席へと案内した。ルナは兄が皆から褒め称えられている姿を見て、始めのうちは自分のことのように喜んでいた。しかし次第に、憧れ目標としている兄が自分の手の届かないところに行ってしまったかのような、疎外感にも似た寂しさを感じるようになった。そうなっては宴会もつまらなく思えてきて、ルナは1人外に出て夜風に当たっていた。
だが、そんなルナの気持ちも、優しい兄にはお見通しだったようだ。

『ルナ、何をそんなにむくれているんだ?』

兄はいつもの調子で話しかけてきたが、ルナは素直に甘えられずにそっぽを向いてしまう。

『別に、なんでもないわよ。みんなが待っているんだから、主役は早く戻った方がいいんじゃないのー?』

そう告げれば、ルナの頭にコツンと軽い衝撃がかかった。兄が小突いてきたのだ。

『1人でつまらない顔をしている妹を放っておけるかっての。それで、何がそんなに気に入らないんだ?』

ルナはしばらく意地を張っていたが、それ以上に久しぶりに会えた兄に甘えたい気持ちの方が勝った。うつむいて、そっと心情を吐露する。

『……兄さんばっかり、ずるいわよ。私はまだ12歳だから星の外に出られないのに、兄さんは1人でどんどん先に行っちゃうんだもの』

一族の掟は理解しているし、兄には何の非もないのだが、それでも寂しさからそう思わずにはいられない。そんなルナの気持ちを聞いた兄は、小さくため息をつくと背負っていた大剣を手に取り、それをルナに差し出してきた。不思議そうに顔を上げたルナに、兄は笑いかけながら告げた。

『そう拗ねるなよ。これをやるから。な?』

『え? でも……これは兄さんのために作られた、特注の剣なんでしょ?』

『そうだな。なかなかに重いし、ちょっとやそっとじゃ扱えないだろうな。でも考えてみろよ。これを使いこなせるようになったら、ルナは今の俺に追いつくことができたってことになるんじゃないか?』

『兄さんに、追いつく……?』

兄は頷いた。

『俺はまだ、コスモリーグにやり残したことがある。だからお前の傍にはいられないし、立ち止まっている暇もないんだ。……だからルナ、お前が俺を追いかけてきてくれよ。俺は一足先にマスターチャンピオンになって、お前が来るのを楽しみに待っているからさ』

兄は笑う。笑顔に一点の曇りもないのは、ルナならば必ず追いついてくれると信じているからだろう。それに背中を押され、ルナは両手でしっかりと剣の柄を握り締めた。

『うん! 待ってて、すぐに追いついてみせるから!』

兄は頷くと剣から手を離した。その途端に剣の重みが両手にかかり、ルナは耐えきれずにしゃがみ込んでしまう。それを見た兄は可笑しそうに笑い出した。

『この調子じゃ、いつになるかわからないな!』

『なっ、何よ! これくらい、すぐに振り回せるようになってみせるわよ!』

それでもまだ笑い続ける兄を見ているうちに、ルナもつられて笑ってしまうのだった。
その後兄はコスモリーグに戻り、前年度を上回る戦い振りを発揮した。ルナもそれに励まされるように鍛錬を積み、ようやくブルームーンブレイドを持ち上げられるようになった頃のことだ。兄が参加するスペシャルマッチが中継されるという知らせが一族のもとに届いた。
兄の活躍を見るために、中継されるときは広場に巨大なモニターが設置されるのはもはや恒例のことだ。その日も一族総出でバトルを観戦することになり、ルナはいつものごとく最前列に座りながら戦いを見守っていた。
始めは、何ら異常はなかった。それが起きたのは、バトルが中盤に差し掛かった頃だった。

『……ねえ、あれは何?』

一族の誰かが呟いて、モニターの上部に映る巨大な球体を指差した。それは強い光を放ちながら空から降ってきて、地上に近づくにつれて中継先の大地を激しく震わせた。
先に届いたのは、これまで聞いたことのないような轟音。次に、爆発とともに大地が割れる映像。驚く間もなく映像は途切れ、ルナは反射的に立ち上がってモニターに縋り付いた。

『兄さん!? 何が起こったの!? 兄さん!』

何も映らないモニターに向かって何度も兄の名を呼び続けていると、不意に映像が切り替わった。
映ったのは、岩石や塵が漂う宇宙空間だった。示されている座標は先ほどまで兄が戦っていたはずの場所なのだが、そこにあったはずの惑星は、すでに跡形もなく消え去っていた。

『嘘……嘘でしょ、兄さん! 兄さぁん!』

無法者による隕石落下テロ。後にメテオストライク事件と呼ばれる大惨事によって、バトルの舞台となっていた惑星は完全に消滅した。出場していた20名のリーガーは全員生死不明。これは事実上の、死亡通告だった。
兄の死を認められなかったルナは自ら捜索へ向かうことを族長に懇願したが、掟が邪魔をして聞き届けられることはなかった。待てど暮らせど兄は戻らず、コスモリーグも責任問題を問われて解体されてしまった。
絶望したルナにとって唯一の拠り所。それは鍛錬を続けることでブルームーンブレイドを完璧に使いこなし、16歳になったらすぐに兄を探しにいくことだった。

そこまで話したところで、ルナの手に雫がこぼれ落ちる。顔を上げてみれば、クリムが涙を湛えながら唇を噛みしめていた。

「……クリムは、そのときの映像を見たことはある?」

「……私の星は、外の情報が全然入ってこないので……」

「そう。……でも、それで良かったのよ。あれを見た後じゃ、怖くてコスモリーグに参加しようとは思えなかったかもしれなもの」

ルナは窓に目を向けた。外は夜の帳が降りており、随分と長く話し込んでいたことに気付く。そろそろ話をまとめなければと思い、ルナは深くため息を吐き出した。

「私がコスモリーグに参加したのは、兄さんの手がかりを探すためなのよ。解体しちゃったときはどうしようかと思ったけど、昨年になってやっと運営委員を一新して再発足したしね。兄さんのいたマスターリーグに行けば何かわかるかもしれないし、コスモピースがあれば、きっと兄さんを取り戻すことができる。ずっと、そう思っていたけど……」

ルナはそこで言い淀んだ。

「……いつの間にか、周りがすっかり見えなくなっていたのよね。私は自分のことばっかりで、あなたにどんな事情があるのかなんて考えもしなかった。……あなただって、故郷がとても大変な状況なのに……」

それを聞いたクリムが顔を上げる。

「ルナちゃん、知っていたんですか?」

「さっき師匠が教えてくれたわ。あの鉢植えのことも一緒にね」

クリムは気まずそうに視線を彷徨わせた後に、申し訳なさそうにそっと呟いた。

「……黙っていてごめんなさい。教えてしまったら、ルナちゃんに気を遣わせて、せっかくのご飯もおいしく食べられなくなると思って……」

食糧難に貧している星の野菜を、ここでの食事で使っている。これだけ聞いたら、たしかにあまり気持ちの良いものではないだろう。しかしルナは首を振ると、今度は自分の手が上になるようにクリムの手を握り直した。

「そんなことは気にしなくていいわよ。だってあなた……あの野菜を食べることで、頑張ろうって気合いを入れていたんでしょ?」

クリムが言葉に詰まった。どうやら図星らしく、それを察したルナはクリムから手を離すと、深々と頭を下げた。

「ご飯をグチャグチャにしてごめんなさい。……散らかしちゃった私がこんなこと言うのも何だけど、ちゃんと全部残さず食べたわ。だから故郷の野菜は、何1つ無駄にはなっていないから安心して」

「……え?」

クリムの口から、心底不思議そうな声が漏れる。

「あれを、食べてくれたんですか? すっごくグチャグチャで、ひっくり返って滅茶苦茶になっていましたけど……」

「床に落ちたわけじゃないし、ちょっと形が崩れただけだと思えば平気よ。それに、その……」

言い淀んでいるルナを、クリムが不思議そうに見つめている。ルナは意を決したように顔を上げたが、すぐに頬をうっすらと赤くしながらそっぽを向いた。

「……あんなにおいしいものを捨てるなんて、それこそもったいなくてできないわよ」

それを聞いたクリムはぽかんと口を開けたまま固まっていたが、しばらくするとプッと吹き出して、心底可笑しそうに笑い出した。

「なっ、何で笑うのよ! まさかケチくさいとか言うつもりじゃないでしょうね!?」

ルナが顔を真っ赤にしながら怒鳴ると、クリムはようやく笑いを収めて目元を指で拭った。

「そうじゃなくて、ルナちゃんはやっぱり優しいなぁって思ったんです」

ルナは首を傾げた。一体、何を指して優しいと言われているのかわからないのだ。クリムはそんなルナの様子に気付くと、微笑みながら言葉を続けた。

「あんなに怒っていたのに、グチャグチャになったご飯を食べてくれるなんて。ルナちゃんは、いつもそうです。私は足を引っ張ってばかりなのに……それでもルナちゃんは、いつも私を気にかけてくれていましたよね? バトルの前には必ず励ましてくれて、武器のお手入れをするときはいつもアドバイスしてくれました」

ルナはますます困惑した。ルナはただ、クリムのうっかりに巻き込まれたくないから気を配っていただけなのに、クリムはそれらすべてを好意的に解釈していたらしい。

「今日の訓練だってそうです。……ルナちゃんに厳しくしてもらわなければ、私はこの先もきっと、バトルはルナちゃんたちに頼ってばかりだったと思います。ルナちゃんもゼロさんも強いから、私が何もしなくたって勝てるかもしれませんけど……だけど、それじゃダメなんですよね?」

ルナに確認を取るように、クリムは己の考えたことを口にしていく。

「私たちはチームですから、みんなで協力して勝たないと意味がないんですよね? そして勝つためには、私自身がもっと頑張らないとダメなんですよね? ……ゼロさんが教えてくれた勝負というものが何なのか……私、やっとわかった気がします」

そこまで話したところで、クリムはベッドから立ち上がると鉢植えに歩み寄った。

「……こんなに小さい鉢植えなのに、故郷の大地よりもずっと生き生きと育ってくれるんです。変ですよね?」

尋ねられるが、ルナは答えられなかった。クリムは鉢植えの1つを手に取ってさらに言葉を続ける。

「でも、不思議です。食べてみればわかるんですけど、どのお野菜も星がまだ元気だった頃の土や水で育てた方が、ずっとずっとおいしいんです。……いつかルナちゃんにも、食べてもらいたいです」

振り向いて、クリムは微笑んだ。

「私の願いは、故郷の星を元通りにすることです。それを叶えるために、もっともっと頑張りますから。だからルナちゃんはこれからも、私に至らないところがあったら今日みたいにどんどん鍛えてくださいね!」

ニッコリと微笑む彼女を、ルナは半ば呆れ気味に見ていた。あれだけ痛い思いをしたにもかかわらず、クリムはちっともへこたれていない。そのうえ訓練時のルナの言動も、すべてが善意によるものであると信じて疑っていないようだ。

どうしてここまで人を信用できるのか。これでは戦士としては甘過ぎるし、デルビン族に絡まれていたときのように、悪意のある相手には簡単に騙されてしまうだろう。あまりにも警戒心がなさすぎて、一見するととても愚かに思えてしまう。少なくとも、これまでのルナにとってはそうだった。
ルナは胸につっかえていたモヤモヤを吐き出すように、深く、長く息を吐き出した。クリムの言動が理解不能過ぎて、思い悩んでいた心は一周回ってどうでもいい気持ちへと変わってしまう。あれほどまでにうっかりを警戒し、成績不振に思い悩んでいた自分がかえって馬鹿らしく思え、口元は緩やかな弧を描いた。

「今日のは、まだまだ序の口なんだからね。あなたが一日でも早く戦力になれるように、これからビシビシと鍛えていくから覚悟してなさいよ?」

そう言って右手を差し出せば、クリムは表情を輝かせながら握り返してきた。

「はい! 改めて、よろしくお願いしますね!」

どちらともなく微笑みながら、二人はしばらく無言で見つめあった。
しばらくして、部屋の向こうからコール音が鳴り響いた。2人は互いに頷きあい、部屋を出るとミーティングルームに向かった。

~ つづく ~