公式ノベル
シャイニングスターメモリーズ
番外編
原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい
コズミックネイブルを訪れたルナが、セントラルロビーで真っ先に見てしまったもの。それは歴戦の戦士や強者の風格漂うリーガーなどではなく、2体のロボに恐喝されている同じ年頃の少女だった。
恐喝とは言っても、相手はデルビン族だ。せこいことでしか名が知られていない種族に絡まれたところで大したことはないはずで、ルナは少女が自分の力でどうにかできるだろうと思ってそのまま素通りしようとした。しかしルナの予想に反して、人の良さそうな少女はあっさりとデルビン族の言い分を信じてしまった。それに驚き呆れたものの、ルナは生来持っている正義感から放っておけなくなってしまい、つい少女を助けるために動いてしまった。
ルナはその後、助けた少女――クリムとともに受付へと向かったのだが、そこで紹介された相手が伝説の初代チャンピオン、ゼロセイバーだったというのは嬉しい誤算だった。それからも多少のアクシデントがありはしたものの、ルナは憧れのゼロセイバーの弟子となり、彼らと一緒にコスモリーグへ参戦することになった。
ルナにとってクリムとの出会いは、そういった幸運を授かるためのきっかけであった。まさに彼女こそが、目の前に現れた幸運の女神と言っても遜色ないだろうと、そのときまでは思っていた。
同じチームになって1週間。ルナはすでに、クリムが女神様などではなかったということを十分過ぎるほどに痛感していた。
「ルナ、右だ!」
「はい!」
その日は雪に覆われた惑星、グレイシアでのバトルだった。ルナはゼロに指示された方角へ方向転換すると、行く手を遮る木々をアクセルバウンドで飛び越えながら大剣を振り上げる。
「もらったわ!」
「げえっ!」
骸骨を思わせるロボの脳天に大剣を叩きつければ、ロボは派手にスパークしてその場に倒れる。スパークによる撃墜判定がバトルを管理するコンピューターに伝わって、すぐにAIによる音声がフィールドに流れた。
『バトル終了。勝者はシャインスターズです』
ソプラによる実況は、基本的には上位ランカーのバトルが優先されるらしい。そのためそれ以外のバトルでは、開始・終了・撃墜時のアナウンスといったものはこのAIによって行われていた。
ソプラと異なり無機質な音声のため味気ないが、それでも勝利が告知されたことには変わりがない。ルナは敵を全滅させての勝利にとりあえず満足して、背中のホルダーに大剣を固定した。
「ルナ、今のは良いタイミングだったぞ」
ゼロに褒められ、ルナは少しばかり照れながらも微笑んだ。
「ありがとうございます。これも師匠が敵を誘導してくださったからこそです」
そうやって互いの健闘を労い合っていたところで、ルナはふと、クリムがいないことに気が付いた。バトルが終了したにもかかわらず、合流する気配がないのだ。
「師匠、クリムを知りませんか?」
「はて? 撃墜のアナウンスは聞かれなかったから、どこかにいるはずだが……」
「もう帰るってのに、どこをほっつき歩いているのかしら? まったく……」
2人はシップへ向かいつつクリムを探した。
「クリムー、帰るわよー? どこにいるのー?」
「る、ルナちゃ~ん……」
呼びかけながら歩いていると、微かにクリムの声が聞こえてきた。ルナは周囲を見渡したが、やはり姿は見当たらない。不思議に思っていると、またしても「ルナちゃーん……」と声がした。その声を頼りに駆け出したルナは、すぐに1本のもみの木へと辿り着いた。
その木は、周囲にある木々と比べて明らかに変だった。他の木々は雪で真っ白にコーティングされているのに、その木は青々としたもみの葉が露わになっている。落雪でもしたのだろうか、根元には人1人が丸々と埋まっていそうなほどにうずたかく雪が積もっていた。
「まさか……」
ルナが嫌な予感を覚えたそのときだ。
「ルナちゃーん、助けてくださーい……」
こんもりとした雪の中から、クリムのくぐもった声が聞こえてきた。
「やっぱり! なんでそんなところに埋まっているのよ!?」
慌てて雪を掻き分けると、クリムがぷはっと息を吐きながら這い出てきた。
「た、助かりましたぁ~……」
「まったくもう……何がどうなってそうなったのよ?」
「敵に狙撃されたので慌てて逃げていたら、この木にぶつかっちゃったんです。墜落したところに雪が落ちてきて、そのまま埋まっちゃいました」
「ってことは、またあなたのうっかりが原因なわけね……。身動きが取れなかったのに、よく撃墜されずに済んだわね?」
「埋まっていたから、かえって気付かれなかったみたいです。このままルナちゃんたちにも見つけてもらえなかったらどうしようかって思うと、すごく怖かったですよー!」
「まったく……勝てたから良いものを……」
ルナは呆れながら呟いた。彼女のうっかりが今に始まったものではないということは、まだ知り合って1週間しか経過していないルナですら十分過ぎるほどに理解することができてしまっている。おとといのバトルでは「背後で物音がしたから敵だと思った」という理由で、超至近距離からビームガンをフルバーストされた。もちろんスパークしたのは言うまでもない。
ルナとしては、クリムにはもっとしっかりしてほしいものなのだが……一番立場が上であるはずのゼロが、とにかくクリムに対して甘かった。
「戦闘中は敵だけでなく、周囲の障害物にも注意を払わなければならない。それがわかったのだから、次は気をつけるようにな」
「はい、ゼロさん!」
ゼロはクリムがうっかりしても叱ることはなく、いつも簡単な注意だけで済ませてしまう。クリムが素人であることはルナも理解しているつもりだが、毎回この調子では一番弟子に対して甘過ぎるのではないかと思ってしまうのも仕方のないことだろう。
たとえゼロが甘くとも、クリムがチームの一員としてしっかり役目を果たしてくれれば何も文句はないのだが、現状はかえって足を引っ張られてばかりだ。かといってゼロを差し置いて自分がしゃしゃり出るのもためらわれるため、ルナもまた当たり障りのない態度で接するしかないのであった。
グレイシアでのバトルを終えた3人は、ホームに帰還するとすぐに装備の手入れを行った。『コスモリーガーたるもの、武器は常にベストの状態を保たなければならない』とはゼロの言であり、そのためシャインスターズは、バトルの後は装備一式の手入れをするのが習慣となっていた。
ゼロはソファーに腰掛けながらロングソードを磨き、ルナは先ほどのバトルで牽制に用いたガトリングビットに銃弾を補充している。クリムはというと、ビームマシンガンビットに詰まった雪を掻きだしていた。銃口に手を入れている姿を目にしたルナは、どことなく嫌な予感がしてクリムに話しかけた。
「ちょっとクリム、ちゃんとスイッチは切ってあるんでしょうね? 暴発したら危ないわよ?」
「もちろん、ちゃんと切っていますよ! 心配してくれてありがとうございます!」
クリムは己の身を案じての忠告だと思ったようだが、実際はうっかりのとばっちりを防ぐために口出しをしたに過ぎない。そうとは知らずにニッコリとVサインをするクリムを見て、ルナは内心で呆れながらもホッと胸を撫で下ろした。
「綺麗になりました! あとは再起動させれば完了です!」
クリムはビットのスイッチを入れてセッティングパネルをいじり始めたが、その表情は徐々に難しいものに変わっていく。
「あれ? あれれ? ……変ですね。動かないです」
「どうした? 故障か?」
ゼロが手を貸そうと立ち上がったそのとき、それまで沈黙していたビットがブンッという起動音とともに宙へ浮かんだ。ルナは思わず身構えるが、ビットがいつものようにクリムの傍らで静態したのを見て緊張を解く。
「大丈夫でした!」
そう言って笑うクリムの姿を見つめながら、ルナは本日何度目になるかわからないため息を吐き出した。
そうして迎えた翌日のバトル。ステージは初戦と同じレリックスだ。初戦での悔しさを晴らすためにも、ルナは気合いを入れながらクリムへ声をかける。
「今日こそは、しっかりと働いてもらうわよ! 初戦のような無様な負けは懲り懲りなんだからね!」
「任せてください! お手入れもバッチリですし、気合いも十分です! ルナちゃん、頑張りましょうね!」
クリムがいつになくはりきった様子で頷いたため、ルナはようやくクリムにもコスモリーガーとしての気概が生まれたのだと思い安堵した。
今日こそは、己の戦いに集中できるに違いない。そう思ったルナだったが、その期待はバトルが始まって早々に裏切られた。
「ビットさん、ゴーです!」
クリムはビットで敵を攻撃しようとしたのだが、ビットはなぜかくるりと回ってクリムへと銃口を向けてきた。ビットはそのままクリムを敵と認識したようで、彼女に向かって容赦なくビームを乱射した。
「きゃー! 助けてくださーい!」
「だからってこっちに来ないでー!」
涙目のクリムが助けを求めてきたため、ルナも敵と認識されて一緒に追いかけ回されてしまう。
「むっ!? いかん!」
キャーキャーと逃げ惑う2人にゼロが気付き、全速力で駆けながらビットに向けてハンドガンを突きつける。しかしビットは2人を追って上下左右に激しく動き回るため、さすがのゼロですらビットのみを撃ち落とすのは難しいらしい。ゼロはハンドガンを投げ捨てると、アサルトドライブで直接斬りかかった。
ビットはあっさりと両断され、ルナたちは無事に助け出された。しかしゼロは、一連の動きでエネルギーが尽きてしまったようでピタリと動きを止めてしまう。
「む? ……無念だ」
動けないゼロは格好の的となり、敵の集中砲火を浴びてスパークしてしまった。
「師匠! くっ……師匠の無念は私が晴らしてみせるわ!」
敵チームのバスターが、大剣を構えたルナめがけて砲撃を放つ。ルナはビットによってダメージを受けているため、ここは剣で弾くよりも避ける方が安全と判断した。離脱のためにブースターを点火させ、飛び上がろうとしたそのとき――
「ルナちゃん、危ない!」
「えっ!? とっ!? ぎゃふぅ!」
クリムに背後から突き飛ばされ、前のめりに倒れたルナは加速の勢いも手伝って顔から地面に突っ込んでしまう。顔面で数メートルを滑っていくルナの姿を見て、クリムが大慌てで駆け寄ってきた。
「る、ルナちゃんっ、大丈夫ですか!? ――ひゃあっ!」
すると今度は遺跡の瓦礫に蹴躓いて、クリムは起き上がろうとしていたルナの真上に倒れ込む。下敷きにされたルナの口から「べふっ!」という声が漏れ、もたもたしているうちに砲撃が直撃して2人は揃ってスパークしてしまう。
『バトル終了。勝者、チーム砲撃組合』
終了を告げるアラームが鳴り響き、AIが勝敗のアナウンスを告げる中、ルナはクリムの胸倉を掴みながら唾を飛ばさん勢いで怒鳴り散らした。
「クリムー! いきなり突き飛ばすなんて、私に何か恨みでもあるの!? おかげでスパークしちゃったじゃないのよ!」
「ご、ごめんなさーい……。私はただ、ルナちゃんを助けようと思っただけなんですけど……」
「かえって足を引っ張ってどうするの! 私はクッションじゃないのよ!? 何回下敷きにすれば気が済むのよー!」
ルナは怒りに任せてクリムを激しく揺さぶるが、そこに合流したゼロが割って入ってきた。
「まあまあルナ、少し落ち着きなさい。クリムも悪気があってやったわけではないのだから、その辺で許してやってくれ」
「師匠! 師匠はクリムに甘すぎますよ!?」
ルナは抗議するが、それでもゼロの態度は変わらなかった。釈然としないルナは、敗北による苛立ちも相まって最悪な気分になってしまうのだった。
~ つづく ~