コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 8 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

セントラルロビーは、運営本部直轄の4つのコロニーが縦に連なっており、それらの周囲を漂うようにリーガーたちが居住する大小様々なコロニーが接続されている。居住コロニーはそれぞれA、B、Cの3つのエリアに分かれており、Aはマスター、Bはプライム、Cはルーキー用の居住域となっていた。
バトル終了後、3人はシップに届いた運営の指示に従ってまずは中央最下層のドックにシップを停泊させた。その後は自動操縦のタクシーに乗り込み、コロニー同士を繋ぐチューブ型のトンネルを通ってCエリアへと入る。そうしてAIに任せるままに走っていると、タクシーはやがて白塗りの2階建て住居の前で停車した。
室内は、キッチン件居間のリビングダイニングが1つ、ユニットバスが1つ、通信用モニターが設置されているミーティングルームが1つ、そして同じ間取りの部屋が5つという内装だった。寝室となる5つの部屋にはベッドが1つずつしかないことから、このホームは少人数のチームに与えられる一番簡易的なものであると推測できる。3人はひとまずリビングにあったU字型のソファーに腰掛けたが、ゼロは腕を組みながら押し黙り、クリムはそわそわと落ち着きなく、ルナはバトルが終わってからずっとぼんやりとしており、気まずい雰囲気が漂っていた。
ゼロはわざとらしく咳払いをして話の口火を切る。

「とにかく、だ。実際にバトルをしたことで色々と得たものがあるだろう。敗れはしたが、しっかりと反省して次に繋げられればいい。……ルナ、聞こえているのか?」

話し始めてはみたものの、ルナは何も耳に入らないらしくぼうっとしたままだ。

「ルナちゃん、ルナちゃん」

隣に座るクリムがポンポンと肩を叩いたことで、ルナはようやくハッと我に返った。

「は、はい! 無様な負け方をしてしまい、申し訳ございませんでした!」

土下座せんばかりに頭を下げるルナを見たゼロは、気にするなと言わんばかりに首を振った。

「君を責めるつもりはない。むしろ、謝らなければならないのは私の方だ。我々のことをしっかり説明しておかなかったからこそ、このような不甲斐ない結果になってしまったのだからな」

「でも、私は師匠たちに自分の情報をお伝えしましたし、師匠の噂は幼い頃から耳にしています。クリムは戦闘自体が始めてですから情報も何もないでしょうし……あれで十分ではなかったのですか?」

ルナが尋ねれば、ゼロはきっぱりと彼女の言葉を否定した。

「とんでもない。ルナ、君が耳にしたという私の噂とはどんなものだ?」

「それはもちろん、並みいる強豪を熟練の技や剣さばきで蹴散らした、軍神さながらの強さを持った初代コスモリーグチャンピオンだというものです。たった1年で現役を引退してしまったことを惜しむ声は多かったとも聞いています」

「軍神とは大袈裟だ。しかし……15年経った今も、やはり内情は伏せられたままか」

「どういうことですか?」

意味ありげな言葉を呟くゼロに、ルナは訝しげな視線を向ける。ゼロは組んでいた手を解くと、己のコアパーツが内蔵されている胸部をトントンと叩きながら言葉を続けた。

「私は、バトルでの度重なる無理がたたってコアパーツを損傷しているのだ。ロボにとっての魂に当たるコアパーツは、他のパーツと違って換えが利かない。おかげで私の燃費は極端に悪くなり、全力を出せばものの数分でエネルギー切れとなり動けなくなってしまうのだ。始めに言った、旧式のポンコツという意味がこれで理解できただろう?」

ルナはひどく驚いていた。初代リーグチャンピオンとなったゼロが翌年には引退してしまった背景にそのような事情があったとは思いも寄らなかったのだろう。それでもルナは、瞬きを繰り返しながらも事態を飲み込むべく思案するそぶりを見せていた。

「なるほど……だから師匠は、クリムを後継者としてコスモリーグに送り込んだんですね」

「それは違う」

呟いた言葉は即座に否定され、ルナは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

「え? でも、才能や実力を見込んで弟子にしたのですよね?」

「弟子にした理由は、やむにやまれぬ事情があったからだ。そもそも私がクリムに出会ってから、まだたったの3ヵ月しか経っていないのだ」

「3ヵ月!? つい最近じゃないですか!」

あまりにも予想外すぎて、ルナはわかりやすく取り乱す。

「そうだ。しかもクリムの場合は、それまでの戦闘経験が皆無なために訓練期間のほとんどを基礎トレーニングに費やさざるを得なかったのだ。あとは最低限の武器操作と飛行訓練のみだが、所詮は付け焼き刃でしかない」

「ってことは……ほとんど素人じゃないですか!」

思わずソファーから立ち上がるルナだったが、すぐに力が抜けたようにへなへなと膝をついてしまう。

「なんだか、色々と思っていたのと違いすぎるわ……」

頭を抱える彼女に向かって、ゼロは申し訳なさそうに頭を下げた。

「バトルが始まる前にしっかり説明するべきだった。いくら初戦でわからないことだらけとはいえ、結果的に君を騙すような形になってしまったことは否定できない。我々を見限って別のチームへ行くのならば……我々には、引き止める権利などない」

ゼロとしては、これがルナにできる精一杯の謝罪なのだろう。しかしルナは、ゼロの予想を良い意味で裏切ってくれた。ゼロの言葉を心外だとでも言いたげに、座り込んでいた体を立たせて胸を張った。

「何を仰るのですか。私はもうあなたに師事する身ですよ? たしかに驚きはしましたけど……だからといってこれしきのことで、師匠や兄弟弟子を見限るような不義理を働くつもりはありません。師匠だって、勝算無くリーグを訪れているはずがありませんよね?」

尋ねられ、ゼロは頷いてみせた。

「もちろんだ。燃費は悪いままだが、まったく動けないというわけではない。エネルギー消費を最小限に抑えれば、30分程度ならフルに戦える。だが、これは私1人では無理だ。下手に全力で立ち回れば、さっきのバトルのようにエネルギー切れを起こしてしまうからな」

「つまり師匠には、チームでのサポートが必要なのですね? 私たちが敵を引きつけてチャンスを作れば、師匠は攻撃によるエネルギーロスを最小限に抑えながら攻撃できるというわけですね?」

「もちろん、君たちだけで撃墜できればそれに越したことはない。そのときは私がサポートに回ればいいだけのことだ」

「なるほど……わかりました!」

ここまで話したところで、ルナはようやく生き生きとした表情を取り戻した。

「戦闘時に想定外のことが起きるのは当然ですよね。それを忘れて取り乱すなんて、私もまだまだ未熟だったということです。次のバトルでは存分に働いて、必ずや師匠の期待に応えてみせます!」

十分に気合いが入ったルナを見て、ゼロは満足げに頷いていた。様子を見守っていたクリムも嬉しそうだ。

「頑張りましょうね、ルナちゃん!」

「ええ! ――――って、クリム!? いつの間にそこにいたのよ!?」

流されるままに相槌を打ったルナは、そこでようやくクリムがキッチンに移動していたことを知る。話に夢中になっていて、まったく気付かなかったのだ。

「話が長くなりそうだったので、先にご飯を作っちゃいました! 調理器具だけでなく、食材も一通り揃っているなんて、運営さんはとても親切なんですね!」

そう話しながら、クリムはリビングのテーブルに出来上がった料理をせっせと運んでいく。

「バトルで体を動かしたんですから、おなかも空いちゃってますよね? お口に合うといいんですけど」

「あら、気が利くじゃない。――って、そうじゃないわよ! よくよく考えたら、あなたが落っこちてきたせいで敵を仕留めるチャンスを逃していたじゃないの! 何よあれは!?」

ルナが人差し指を突きつけながら責めると、クリムは顎に指を当てながら不思議そうに首を傾げた。

「それが、急にブースターが動かなくなってしまったんです。故障しちゃったんでしょうか? ゼロさん、後で見てもらってもいいですか?」

「その前に、クリム。連続して飛行する際は、時折地上に降りてエネルギーをチャージしなければならないと教えたはずだぞ? もしやそれを忘れていたわけではないだろうな?」

それを聞いたクリムはしばらくポカンとしていたが、やがて思い出したように手を叩くと、大袈裟なまでに驚いていた。

「そうでした! 2人に追いつくことばかり考えていたので、すっかり忘れていました!」

「やはりな……今回もまた、君のうっかりが原因というわけか」

「そんな初歩的なミスで、あんな無様な姿を全宇宙に晒すなんて……」

頭を抱えるルナを見たクリムは、焦りながらも明るく振る舞った。

「とにかく、今はご飯を食べましょう! しっかり食べて休むのも、コスモリーガーの努めですよ!」

「ちょっと、本当に反省しているんでしょうね? 大体あんな恥を晒したのに、のんきにご飯なんて食べられるわけが――」

そのとき、ルナのおなかがぐぅと鳴った。ルナが赤面しながら自分のおなかを押さえるのを見て、クリムが楽しげに笑い出す。

「やっぱり、ルナちゃんもおなかが空いていたんですね! 沢山作りましたから、遠慮しないでください!」

「余計なお世話よ! 私は別におなかなんて空いてな――」

「はい、どうぞ!」

「むぐっ!」

フォークに刺した肉を無理矢理口に押し込まれ、ルナは仕方なくモグモグと口を動かした。そうしてゴクンと飲み込むと、複雑そうな表情を浮かべながら呟いた。

「……お、おいしいじゃないの」

絶妙な塩加減が、戦闘で疲れた体に染み渡る。スパイスの香りも鼻孔をくすぐって、ルナの食欲は急激に高まってしまう。
クリムは褒められたことを手放しで喜んだ。

「わぁ、ありがとうございます! サラダもスープもありますから、どんどん食べてくださいね!」

「なんだか誤魔化されたような気がするけど……まあいいわ」

食欲には勝てず、ルナは観念して食卓につく。

「ゼロさんには、いつものオイルを用意してあります!」

「うむ。いただくとしよう」

食事が不要なゼロは、嗜好品として愛飲しているオイルの入ったグラスをクリムから受け取った。全員が席についたところで、クリムはにこにこ顔で両手を合わせる。

「それじゃあ食べましょう! いただきまーす!」

揃っていただきますをして、テーブルに並ぶおかずへと手を伸ばす。初戦の戦績は芳しくなかったものの、食卓は和気藹々とした雰囲気に包まれていた。

~ つづく ~