コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 7 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

クリムとルナが、手足をさすりながら自分の体をまじまじと見つめていた。

「コーティングされても、見た目は全然変わってませんね?」

「本当にダメージが無効化されるのかしら?」

半信半疑な2人に、ゼロはからかうように声をかけた。

「攻撃を受ければ、嫌でも効果を実感できるぞ?」

「そ、それはそれで怖いです! いきなりスパークしちゃうかもしれませんし!」

クリムがブンブンと首を振る。その様子がおかしかったのか、ゼロの口から小さな笑い声が漏れた。

「何にせよ、これが君たちの初陣だ。胸を借りるつもりで、思いっきりぶつかっていくといい」

「胸を借りるどころか、返り討ちにしてみせますよ!」

ルナは背負っていた大剣の柄に手をかけると、そのまま力任せにホルダーから引き抜いた。クリムも慌てて腰に下げていたビームレイピアの柄を手にし、白く発光する刀身を発生させる。

『初戦の舞台はこちら、緑豊かな自然の中に遺跡が点在する惑星、レリックスです! 厳かな雰囲気漂うこの遺跡は、古代の闘技場か、もしくは祭壇でしょうか? しかーし、コスモリーグの舞台となったからには、そんなことはお構いなしです! 壊したところで責められないので、思う存分暴れちゃってください! それじゃあいきますよー!』

ルナとゼロが姿勢を低くする。

『バトルスタート!』

開始音のホーンがフィールドに鳴り響き、ルナはすぐさまブースターに点火させて走り出す。

「待ちに待った初陣だもの、存分にやらせてもらうわよ!」

ゼロもすぐにルナの後に続く。一方クリムは、さっそく2人に置いて行かれてあわあわしていた。

「ルナちゃん、ゼロさん、待ってくださーい!」

ようやくブースターに点火させて、クリムは2人の後を追って空中を飛行した。

ルナはブースターを加速に用いて軽やかに地上を走行する。そうして走り続けているうちに、遺跡と思しき階段や石垣が見えてきた。

「あれね!」

ルナは一瞬強く吹かせると同時に強く地面を蹴った。宙を飛ぶ体は易々と石垣を跳び越え、視界は向こう側にいたロボの姿を捉える。ロボたちは、遺跡内部にかかる石橋を今まさに渡ろうとしていたところだった。
相手チーム――アニマルナイトの面々は、それぞれが動物を模した外装をしていた。先頭を走るのはオレンジ色のボディに黒いまだら模様が特徴的の、肉食獣を思わせる大柄なロボだ。

「来たぞ! 敵だ!」

先頭のロボが発砲してきたが、所詮は牽制だ。十分に距離があるため、ルナは慌てずに両手で柄を握ると、一直線に飛んできた弾丸を大剣で弾き飛ばした。

「散開しろ! 仲間も近くにいるはずだ!」

「周囲を警戒しよう!」

固まっていたロボたちは瞬時に散り散りになり、橋の上に残るは先ほど発砲したオレンジ色のロボだけだ。ルナはそのロボに狙いを定めて、大剣を構えなおすと一気に地を蹴った。

「アクセルバウンド!」

跳躍と同時にブースターを吹かし、一足飛びでロボの頭上に躍り出る。ルナはそのままロボの脳天めがけて大剣を振り下ろすが、敵は右手のハンマーでガードするとお返しとばかりに左手のハンドガンをルナの胴体に突きつけてきた。ルナがすぐさま体を捻れば、銃弾は真横を通り過ぎて虚空へ飛んでいく。着地し、ルナは強く地面を踏ん張るとがら空きのボディに向かって大剣を振り抜いた。
ガチャンという、金属同士がぶつかり合う音が響く。たしかな手応えが大剣を通してルナに伝わったが、ロボの体には傷1つつかず、代わりに青白い粒子が飛び散った。

「くそっ!」

ロボはたまらず後方へ飛ぶが、ルナはロボと相対するように大剣を構えなおしただけで追撃しなかった。間合いを取ったロボが、ボディをさすりながらルナを睨みつける。

「こんな小娘に一撃を食らうなんてな。てめぇ、何て名前だ?」

「蒼い月の民、ルナスタシア」

「蒼い月の民だって? ……なるほどなぁ、筋がいいわけだ」

「会った場所がコスモリーグで良かったわね。粒子に守られていなかったら、とっくに真っ二つよ?」

ルナが不敵な笑みを浮かべながら告げれば、ロボは心底愉快そうに笑い出す。

「わっはっはっ、生意気な小娘だぜ! それでこそ倒し甲斐があるってもんだ!」

ロボは左手のハンドガンを収めると、両手で握ったハンマーを頭上に構えながら名乗りを上げた。

「俺はジャガーアームだ! 蒼い月の民と力比べをして勝ったとなれば、百獣王の名声に箔がつくってもんだ! 小娘だからって手加減しねえぞ!」

「望むところよ!」

表情を輝かせながらジャガーアームに向かっていくルナの姿を、ゼロは石垣の上で腕組みをしながら眺めていた。

「うむ、さすがは蒼い月の民だ。戦いによる勝利を至上の名誉とする一族なだけあって、生き生きと戦っているな」

感心した風に呟いて、ゼロは石垣から飛び降りた。離れたと同時にビームが石垣へ直撃し、ゼロはロボアイの光を強めた。

「師匠となったからには、私も負けてなどいられないな」

宙返りをして姿勢を整え、柱の影に向かって左手のハンドガンを発砲すると、ゼロを狙っていたカエル頭のロボが咄嗟に身を縮めた。

『さあ、さっそく始まりました! 石橋の上で戦っているのは、パンツァー同士のジャガーアーム選手にルナスタシア選手! 石垣から祭壇へ移動しながら銃を撃ち合っているのは、アサルト同士のフログランダー選手とゼロ選手です! 果たしてどちらのチームが勝利するのか、白熱のバトルに目が離せません!』

ソプラの実況が響く中、1人蚊帳の外にいたクリムはようやく遺跡の上空へ到達した。

「やっと追いつきました……戦いはどうなっているんでしょうか?」

そのまま上から眺めていると、コンドル型にブタ型、さらにはモグラ型のロボが3方向からルナに迫っているのに気付く。どうやらルナを取り囲もうとしているようだ。

「これは――ルナちゃんがピンチです! 挟み撃ちになんてさせません!」

クリムは加勢するべくブースターを吹かし、ルナの上空にさしかかったところで体勢を整えた。

「いきます! ティアリング――」

気合いを入れ、ゼロとの訓練で身につけた技を繰り出そうとしたまさにそのとき、ブースターの火がプスンと音を立てて消えた。

「あれ? あれれ?」

浮力がなくなり、クリムは空中で直立した姿勢のまま落下していく。

「わわっ、止まりませーん!」

手をばたつかせたところで、鳥ではないのだから飛べるわけがなかった。
その頃ルナは、ジャガーアームを仕留めるチャンスを手にしていた。力任せに振り抜いた大剣が、ジャガーアームのハンマーを彼の手から弾き飛ばしたのだ。

「くそっ!」

ジャガーアームは腰に収めていたハンドガンに手を伸ばすが、ルナが踏み込む方が早い。

「これでおしまいよ! 蒼月流剣技、月花――」

「ルナちゃーん! 避けてくださーい!」

突然上空から響いてきた声に、ルナは思わず攻撃の手を止めて空を仰いだ。

「避ける? 何を――――ってえええええええ!?」

吊り目がちな瞳を大きく見開いたときには、すでにクリムの尻が目前にまで迫っていた。

「ぶっ!」

何が起きたのかもわからないまま顔面にヒップドロップを受け、ルナはクリムの体重と落下の勢いをもろに食らい地面に突っ伏した。砂埃とともに、2人をコーティングしている粒子の光が舞い上がる。
予想外の事態を前にして、ルナと直接対峙していたジャガーアームどころか、駆けつけた仲間のロボたちも呆気にとられてしまう。

「……ジャガー、どうするっぴ?」

ブタ型のロボに尋ねられ、ジャガーアームはハッと我に返るとハンドガンを構えた。

「ちゃ、チャンスだ! 撃て撃てー!」

4体からの一斉射撃が、2人に向かって雨あられと降り注ぐ。

「きゃー! クリム、何をボサッとしてるの!? さっさとどきなさいよ!」

「そう言われても、ブースターがルナちゃんの服に引っかかっちゃって立てないんですぅ!」

「ちょっとやめてよ! 引っ張らないでー!」

粒子の効果は絶大で、2人は銃撃をその身に受けてもかすり傷1つ負わない。しかしギャーギャー騒いでいるうちに、2人の体は眩い光を発し始めた。

「や、やばっ――」

「これってもしかして――」

気付いたところで遅かった。皆まで言う暇すら与えられないまま、2人の体は派手にスパークしてしまう。ビリビリと空気の爆ぜる音が響いて、まともな言葉にならない少女たちの悲鳴が木霊する。
スパークが収まった頃には、2人は体から細い煙を上げながら地面に伸びていた。

「そ……想像以上にビリビリですぅ……」

「わ、私の初陣がぁぁ……」

ソプラの説明通り、2人は体が痺れてまったく動けなかった。

『なんということでしょう! バトル開始から3分で、いきなり2人が撃墜されてしまいました! これでチームアニマルナイトは、撃墜ポイントに残り時間ボーナスを合わせて、なんと400ポイントという高得点を獲得です! これはもう、勝負は決まったも同然でしょうかぁ!?』

ソプラの実況が、ルナたちから離れた場所にいたゼロに戦局を伝えた。

「ふむ。これは……少々厳しいか」

400ポイントの大差を、1人対5人という人数差でひっくり返せるとは考えにくい。誰もがアニマルナイトの勝利を信じて疑わない状況に、それまでは逃げ回るばかりだったフログランダーも強気な態度へ変わった。

「雑魚ばっかりだゲコ! これなら余裕で勝てるゲコ!」

フログランダーは右へ、左へと素早く跳びはねながら距離を縮めてくる。そうして一際強く地を蹴ると、ゼロを仕留めるべく片手剣を振り上げた。

「お前もここで終わりだゲコ! 覚悟するゲコ!」

だが、剣が振り下ろされるよりも早く、ゼロのロボアイが強い光を放った。

「アサルトドライブ!」

きりもみ回転で急加速した勢いのまま、フログランダーに体当たりをして弾き飛ばす。フログランダーはカウンターを食らう格好となり、粒子を散らしながらゴロゴロと地面を転がっていった。
ゼロはその隙にロングソードを抜くと、外套をひるがえしながら宣言した。

「弟子たちの不始末は、師匠である私がつける! こうなったからには全力で行くぞ!」

「何をぅ!? 格好つけやがって!」

フログランダーがハンドガンを構えるも、ゼロは素早くジグザグに走行して相手を翻弄する。

「は、早くて照準が――――ゲコォ!」

一気に間合いをつめ、まずはボディに向かって一閃。弾き飛ばしたフログランダーに銃口を向けて引き金を引けば、狙いは寸分違わずに頭部へと命中する。急所への攻撃はクリティカルヒット扱いとなり、フログランダーは呆気なくスパークして地面へと落下した。
目の前の敵を倒したからといって、バトルはまだ終わらない。ゼロは振り向いた先に他のロボたちが走行してくるのを認めると、すぐにブースターを点火して一直線に走り出す。アニマルナイトたちが一斉に引き金を引いてくるが、ゼロはそれらをスラローム走行で避けながらぐんぐん距離を縮めた。

「散開しろ! 四方から囲め!」

ジャガーアームの指示を受けて、モグラ型とブタ型が左右へ、コンドル型が上空へと散る。そうして旋回しながら、4方向からゼロを追い込んでいく。

「これで全滅だっぴ!」

地上と空中。それぞれから挟み込まれては逃げ場がないはずだが、ゼロは地を蹴ると同時にアサルトドライブで上空の敵に肉迫した。そうして回避行動が取れなかった相手のボディに跳び蹴りを食らわせ、蹴り飛ばした反動を利用してそのままブタ型のロボに飛びかかった。

「ぴっ!?」

反射的に突き出された剣を弾き、がら空きのボディに向かって3発発砲すれば、すべての銃弾はロボのコアパーツが存在する胸部に命中してスパークさせる。
倒した相手には目もくれずに、ゼロは次なる相手を探してロボアイを光らせた。

『これはすごいです! シャインスターズのゼロ選手、怒濤の追い上げであっという間に2体を撃墜しました! これで残り時間ボーナスと合わせて355ポイントを獲得! あと1体撃墜すれば、ポイント上でアニマルナイトを上回ります!』

「あと2体、もう少しだ!」

ゼロがさらに追撃しようと踏み込んだそのとき、それまでイエローに輝いていたボディが急激に光を失った。

「む?」

ブースターの火も消え、ゼロは1歩踏み込んだ姿勢のままで動きを止めてしまう。

「何だ!? 急に動かなくなったぞ!?」

「何かの罠かもしれないモグ! 様子を見るモグ!」

残りの2体はゼロとの距離をそのままに、剣を構えていつでも攻撃に転じられるようにした。しかしゼロは先ほど吹っ飛ばしたコンドル型のロボが戻ってもなお動こうとしないため、双方の間には何とも言えない微妙な空気が流れ始めた。
そんな中、ゼロは敵に聞こえないほどの小さな声で無念そうに呟いた。

「……どうやら、これが私の限界のようだな」

そうこうしているうちに、痺れを切らしたアニマルナイトが武器を掲げて駆け出した。

「こりゃあ駆動系のどっかを故障したに違いねぇ! やっちまえー!」

3人がかりで袋叩きにされてもまったく抵抗しないため、ゼロはすぐに粒子の限界を迎えてスパークしてしまった。

『シャインスターズ全滅! よって初戦の勝者は、チームアニマルナイトに決定しました!』

広場にいるギャラリーの歓声がバトルフィールドに響き渡る中、バトル終了によって麻痺状態が解除されたルナがゆっくりと体を起こす。

『アニマルナイトにはシャインスターズの355ポイントから、勝利ボーナスとして半分の178ポイントが加算されます! これで合計733ポイント! 幸先の良いスタートとなりました! 一方シャインスターズは、獲得ポイントは177ポイント! これはちょっと厳しいでしょうか!?』

いきなり開いてしまった差。不本意な結果を前にして、ルナはがっくりとうなだれるしかなかった。

~ つづく ~