コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 6 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

広場は一気に興奮に包まれた。リーガーたちの「うおお!」という声で地響きが生じる中、チーム名を呼ばれたクリムたちはポカンと口を開けたまま固まっていた。

『これより両チームには、対戦ステージとなる惑星へ移動していただきます! バトルの準備が整うまで、もうしばらくの間お待ちくださーい!』

それを聞いた3人は、我に返った途端に慌てふためいた。

「ど、どうしましょう! どうすればいいんですか!?」

「どうするも何も、戦うしかないでしょ!? それで師匠、私たちはどうすればいいんですか!?」

「2人とも落ち着くんだ! とにかく、まずはシップに乗って対戦ステージへ移動するぞ!」

ゼロを先頭に広場を後にした3人は、エレベーターで下降しながらシップの停泊している下層に向かう。その間にも、ロビー内のスピーカーを通じてソプラの声が聞こえてきた。

『お二方のバトルは、プライムやマスターを通じても今季初めてのバトルになります! バトルの模様は全宇宙に中継されますので、どうぞのびのびとバトルを行ってくださいね!』

「中継なんて、一気に有名人になったみたいでドキドキしますね! 緊張します!」

「馬鹿なこと言ってないで、さっさと乗りなさい!」

シップの前で足を止めたクリムが、ルナにせっつかれて慌てて乗船する。乗降口を閉じたところでシップの自動航行システムが作動し、運営から送られてきた位置情報を元に航行を開始した。
宇宙空間に出たところで、3人は操舵室で輪になるように向かいあった。

「いきなり初戦とは予想外だが、抽選の結果ならば仕方がない。せめて急造チームのハンデを少しでも解消できるよう、この時間を使って互いの情報を交換しよう」

ゼロはまずルナを見た。

「私はアサルト、クリムはエアリアルで登録してある。ルナスタシア、君のクラスはたしか、パンツァーだったな?」

ゼロがチーム登録時に口頭で申請していた内容を思い出しながら尋ねれば、ルナはすぐに頷いて、背負っている大剣を手に取った。

「ルナとお呼びください。私はこの大剣を使った近接戦闘を得意としていますので、パンツァーとして登録させていただきました」

大剣は彼女の身の丈ほど大きく、見るからに重厚な作りをしている。ゼロはそれを眺めると、今度は彼女の肩にある装備に目を向けた。

「肩の補助武装はガトリングビットか。射撃の腕はどの程度だ?」

「師匠ほどのリーガーなら、噂だけでも耳にしたことはあると思います。私はこう見えても、蒼い月の民なんです」

それを聞いたゼロがロボアイを明滅させる。どうやらひどく驚いたようだ。

「蒼い月の民だと? 優秀な戦闘民族として名高い、あの一族の出身か?」

「はい。射撃も一通りの訓練も受けているのでそれなりの腕であると自負していますが、私は剣で戦う方が好きなので、このビットもせいぜい牽制にしか用いません」

「体格に見合わない大剣だとは思っていたが……なるほどな。蒼い月の民ならば、パンツァーなのも頷ける」

うんうんと何度も頷くゼロを見つめるクリムは、2人が会話する内容が理解できていないのか左右に首を傾げていた。

「あ、あの……さっきから何を言っているのかさっぱりなんですけど……」

瞬きを繰り返しながらそっと尋ねると、ゼロが思い出したように手を打った。

「そういえば、クリムは初めて耳にするのだな。我々コスモリーガーは、得意とする戦闘スタイルによってクラスが分かれるのだ。ざっくりと説明すると、私のアサルトというクラスは近接戦闘に特化した短期決戦用スピード型。ルナのパンツァーも近接特化型だが、アサルトに比べてパワーに秀でているクラスに分類されている。そしてクリムのエアリアルは、空中での飛行や高速機動が得意なリーガーが属している近・中距離型のクラスに当たるわけだ」

そこまで話したが、クリムは口元をへの字に曲げながらますますわけがわからないと言いたげな表情を浮かべていた。

「どうしてわざわざ分ける必要があるんですか? かえって面倒になっちゃう気がしますけど……」

「それは当然、リーガーのパワーバランスを整えるためよ」

今度はルナがクリムの疑問に答えた。

「コスモリーグでは、持ち込める装備の量や種類に制限があるのよ。あなただって、受付でチェックを受けたでしょ?」

それを聞いたクリムは、しばらく考えた後に「あっ!」と漏らした。

「そう言われてみれば、トンネルみたいな機械の中を歩かされましたね」

受付を終わらせるまでの間はずっと慌ただしかったため、クリムはすっかり失念していたようだ。ルナは頷くとさらに説明を続ける。

「クラスを申請することで、そのクラスに合った規制を適用しているのよ。パンツァーは飛行特化ブースターや長距離狙撃用の武器を装備できない代わりに、他のクラスよりも高威力な近接武器が装備できる。あなたのエアリアルの場合は、地上走行用ブースターの機動性が他のクラスに劣る分、飛行時の機動性が高いブースターが装備できるの。あとは近接用と中距離用の両方の武器を装備できるのも強みよね。そうやってクラスによって装備を調節することで、公平なパワーバランスを維持しているってわけ」

「なるほど……わかりました!」

笑顔で頷くクリムを見て、ルナは大袈裟なまでに肩を竦めてみせた。

「……って言うか、クラスの分類や特徴を知らずにコスモリーグに来るなんて、クリムはつくづくリーガーの自覚がないわね」

呆れ声で呟いたルナに対して、ゼロがすかさずフォローに入った。

「実を言うと、クリムは今日が初めての戦闘なのだ。経験が無く不慣れな分、戦力としてはあまり期待しないでくれ。かく言う私も、引退してからはまともに訓練していない。すまないが、2人揃って君の足を引っ張るかもしれないことを覚悟しておいてくれ」

ゼロが頭を下げるが、ルナは大して気にも留めていないようだ。

「そんなにご謙遜なさらないでください。いくらブランクがあると言っても、染みついた感覚はそう簡単には消えないはずです。第一私は、師匠が偉大なリーガーだからといってバトルを任せきりにするつもりは毛頭ありません。ご心配されなくとも、しっかり自力でポイントを稼いでみせますから安心してください!」

「ルナ、私は謙遜しているわけでは……」

ゼロはさらに何かを言いかけたが、遠慮がちな声はルナには届かなかった。ルナはクリムに向き直ると、親指を立てながら自信満々の笑みを浮かべる。

「師匠の一番弟子だからって油断しないことね! ボサッとしていたら、私が全員倒しちゃうんだから覚悟しておきなさい!」

「ルナ、聞くんだ。クリムは――」

ゼロはなおもルナに話しかけようとするが、今度はクリムがガッツポーズしながら前に進み出てそれを阻む。

「大丈夫です! 私も一生懸命頑張ります!」

またしても声が掻き消されてしまい、ゼロは悩ましげに自らの頭を押さえていた。

そのとき、マップ画面を表示させていた操舵室のモニターがソプラへと切り替わった。

『どうも~! チームアニマルナイト、チームシャインスターズのみなさんは、間もなくバトルステージとなる惑星に到着する頃ですね? ではここで、昨年度から導入された新バトルシステム――プロテクト粒子についてご説明いたしまーす!』

カメラが横にスライドし、今度はテーブルの上に乗った紙人形を映し出す。ソプラは手にしていた箱形の装置を紙人形に覆い被せると、数秒待ってから装置を引き上げた。真っ白だったはずの紙人形は、今はうっすらと青みを帯びている。

『プロテクト粒子は、コスモリーグ公認のリーグバトルでリーガーのみなさんを保護するために開発された粒子です。この紙人形をリーガーとすると、今は粒子でコーティングされている状態になります。この状態で攻撃を受けると……』

ソプラが言葉を切ったそのとき、画面の端からミサイルを模した縫い針が飛んできた。鋭い先端は紙人形に突き刺さるかと思われたが、針は刺さるどころかすり傷の1つも与えられなかった。その後も針は次々と飛んでくるが、紙人形は凹みすらしない。

『このように、いかなる攻撃も粒子がシャットアウトしてくれるので、リーガーのみなさんは怪我の心配なくバトルを行うことができるのです!』

ソプラの力説に、画面の向こう側にいるリーガーたちから歓声が上がった。モニターの前に集まっていた3人も、この技術には驚いたようで目を丸くしている。

「すごいテクノロジー……さすがはコスモリーグね」

「なるほど。怪我の心配がいらないから、思う存分実力が発揮できるな」

ルナとゼロはすっかり感心していたが、ソプラは不意に人差し指を立てるとチッチッと振りながら説明を付け加えた。

『ただし、粒子コーティングにはデメリットもあります! 一定以上のダメージを受けてしまうと、それまで吸収してきたダメージを電撃という形で放出してしまうのです!』

「そうなると、どうなるんですか?」

クリムの疑問が届いたわけではないだろうが、ソプラはすぐに回答に当たる説明を告げてきた。

『粒子が発する電撃は、粒子自身が発するダメージなので無効化されません! しかも粒子はみなさんの体に直接コーティングされているので、発せられた電撃はもろにみなさんの体を流れます!』

そう告げた瞬間、画面の中の紙人形が音を立ててスパークした。どうやらこれが粒子の発する電撃のようだが、激しい閃光が収まったときには、紙人形はプスプスと煙を上げながら真っ黒焦げになっていた。

灰となって崩れた紙人形。ショッキングな映像に、クリムたちは呆気に取られて言葉を失った。

『……あっ、あはは! ちょっと過激な映像でしたね!』

ソプラは苦笑いを浮かべながら、テーブルの上にある残骸をハンカチでサッと拭った。

『これはただの見本ですからご安心ください! 紙で作った見本は熱に弱くていけませんね! えへっ☆』

アイドルスマイルを浮かべたソプラは、何事もなかったかのようにそのまま説明を続けた。

『一定量のダメージを受けると、ご覧の通り全身がスパークします! これは結構な高圧電流ですので、スパークしたリーガーはもれなく麻痺して動けなくなってしまうのです! コスモリーグでは、このスパークした瞬間をもって撃墜と判定していまーす!』

「……なるほどな。擬似的な撃墜状態を作ることで、勝敗をわかりやすくしたのだな」

「でも、ちょっと怖いですね。ビリビリするなんて嫌です」

「要は撃墜されなければいいんでしょ? 簡単よ」

それぞれ異なる反応を見せたところで、シップが突然ガタンと揺れて停止した。3人はモニターにばかり気を取られていて気付いていなかったが、いつの間にか目的地へ到着していたらしい。強化ガラスの向こうには、緑に覆われた風景が広がっていた。

『どうやら、みなさんのシップと粒子発生装置のドッキングが完了したようです! 出場選手のみなさんは、転送エレベーターへ移動してください!』

いよいよバトルが開始される。各々武器を携えたところで、ゼロはロングソードの切っ先を外へと向けた。

「こうなったら、とにかく実戦あるのみだ。行くぞ2人とも!」

ゼロを先頭に廊下へ飛び出し、そのままシップ中央にある出入り口を目指す。ドーナツ状の廊下にある柱がエレベーターとなり、下降するとともに装置から粒子が発生してコーティングされる仕掛けだった。3人は揃ってエレベーターに乗り込み、青白い光に包まれながら惑星の地表へと降り立った。

~ つづく ~