コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 3 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

2体の姿が完全に見えなくなったところで、黒髪の少女がレールガン使いの少女に向き直る。吊り上がった目尻からは、彼女が怒っていることがはっきりと伝わってくる。

「危ないわね。当たっていたらどうするつもりだったのよ?」

黒髪の少女に尋ねられても、レールガン使いの少女は眉1つ動かさないで答える。

「そんなことは有り得ない。私は狙いを外すなんてミスはしないもの」

「そういう問題じゃないわよ! 1歩間違えたら大怪我をしていたのよ!?」

「さっきのはただの試し打ち。それすら避けられない程度の実力なら、勝ち進むのは到底不可能。大人しく母星に帰るべきね」

これを聞いた黒髪の少女は、吊り上がっていた目つきを一層険しくしながらこめかみに青筋を立てた。

「あなたね、さっきから言わせておけば――」

「あっ、あの! ちょっと待ってください!」

今にも掴み掛かろうかという少女を見て、クリムは咄嗟に飛び出すと2人の間に割って入った。そうして黒髪の少女の足が止まった隙に、思いついたままの言葉を口にした。

「お2人が助けてくれたおかげで、私はお金を取られることも、怪我をすることもありませんでした! 私はこの通り大丈夫ですから、どうか安心してください! 本当に助かりました! ありがとうございます!」

クリムが精一杯の笑顔を浮かべながら深々と頭を下げる。その姿を、黒髪の少女が何とも言えない微妙な表情で見つめていた。先ほどまでの勢いはすっかり失せており、複雑な表情で頬を掻いている。一方レールガン使いの少女はというと、クリムの礼を見ても無表情は変わらず、そのまま背を向けると何も言わずに立ち去った。
黒髪の少女は、三つ編みの揺れる背中が遠ざかっていくのを見送ってからため息交じりに呟いた。

「無視することないじゃないのよ。まったく、感じの悪いやつね」

「そうですか? 助けてくれたんですから、良い人には変わりないと思いますけど?」

クリムが心底不思議そうに首を傾げていると、少女は先ほどにも増して深いため息を吐き出した。

「そんな風にあっさり信用しちゃうから、さっきみたいに騙されることになるのよ? あなたはもっと警戒心を持つべきだわ」

「うっ……そうですよね。気をつけます……」

少女はしゅんとするクリムに微笑みを向けると、レールガン使いの少女が立ち去った方向とはまた別の方角へと足を向ける。

「わかればいいわ。それじゃあ、私は受付に行くから。早くしないと、エントリーが締め切られてしまうものね」

「はい! 本当にありが……――あれ? 受付……?」

その単語を聞いた途端、クリムは自らの置かれていた状況をようやく思い出した。顔を青ざめさせたクリムは、声にならない叫びを上げながら少女を追いかけた。

「まままっ、待ってくださーい!」

「きゃあっ! ――って、何!? まだ何か用なの!?」

タックルする勢いで抱きつけば、少女はひどく驚いたように目を丸くしながら振り向いた。涙目のクリムは、少女の腰にしがみつきながら懇願する。

「お願いです! 私も受付に連れて行ってください! 先生にエントリーを済ませるように言われたのに、迷子になっちゃったんですぅ!」

「迷子って……。エントリーってことは、あなたもコスモリーグに参加するのよね? 迷子になった挙げ句、雑魚に絡まれるだなんて……呆れるほどの危機感のなさね」

「うぅ……すみません……」

「ちょっと、私に謝られても困るわよ。……まったく、仕方がないわね。どうせ同じ場所に行くんだし、ついてくればいいわ」

少女が観念したと言わんばかりに肩を竦めてみせれば、クリムは両手を挙げて喜びを露わにする。

「わぁい! ありがとうございます!」

「でも、こういうのは今日だけよ? バトルフィールドで会えば敵になる相手を何度も助けてあげるほど、私はお人好しじゃないんだからね?」

「わかっています! 次に迷子になったときは、今度こそ自分の力でなんとかします!」

クリムははりきって決意表明をするが、その的外れな内容を聞いて少女は自らの頭を押さえた。

「なんとかするしない以前に、まずは迷子にならないようにしなさいよね……。まあいいわ、さっさと行きましょう。私はルナスタシアよ。長いからルナでいいわ」

「私はクリムローゼです。クリムって呼んでくださいね」

2人は簡単に自己紹介を済ませると、煉瓦造りの道を並んで歩いた。

「こんなに簡単な道なのに、どこをどうやったら迷子になるのか教えてほしいくらいだわ」

「あはは……すみません……」

軽い世間話をしながら歩くことしばらくして、2人は広場の中央に辿り着いた。中央の花壇には色とりどりの花が植えられており、四方を取り囲むようにして巨大なディスプレイが設置されている。

「この先に受付があるはずよ」

「なんとか間に合いそうで良かったです。……あれ?」

進もうとしたところで、クリムが不意に足を止める。

「どうしたの?」

ルナが気付いて歩み寄ると、クリムはディスプレイの向こう側を指差した。

「あそこに何か書かれていますけど、あれは何ですか?」

それは大理石でできた石碑で、表面には金色の文字が刻まれていた。ザッと見る限りでは、どうやら羅列されているのは名前のようだ。
首を傾げるクリムに対して、ルナはそれが何であるかすぐに思い至ったようで「ああ」と頷いてからその疑問に答えた。

「これは歴代のコスモリーグチャンピオンの名前よ。ここに刻むことで栄誉を讃えているのね」

「へぇ……なんだかすごいですね」

「すごいなんてもんじゃないわよ。数千人とも言われているコスモリーガーの頂点に立つのよ? 圧倒的な実力がないとなれないんだから」

ルナは腰に手を当てると、興奮気味に喋り始める。

「現在までに13人のチャンピオンが誕生しているけど、その中でも1番有名なのは、やっぱり初代チャンピオンのゼロセイバーよね。まるで太陽のように光輝くイエローのボディに、並みいる強豪を流れるような剣さばきで次々と蹴散らしていくその姿は、さながら軍神のようだったって話よ」

ルナが一息に言い切ると、クリムは手をパチパチと叩きながら嬉しそうにしていた。

「うわぁ! ゼロさんって、そんなにすごい人だったんですね! ルナちゃんに褒めてもらえると、なんだか私まで嬉しくなってしまいます!」

「ちょっと、ゼロさんだなんて馴れ馴れしいわよ? はぁ……私も一度でいいから、この人の戦う姿を直に見てみたかったわ」

ため息交じりにルナが呟けば、クリムは彼女を励ますように明るく話しかける。

「大丈夫ですよ! これから沢山見られますから!」

「見られるわけないでしょ。現役だったのは15年も前なのよ? 今はどこで何をしているのか、さっぱりわからないんだから」

「え? でも、ゼロさんは――」

クリムが言いかけたそのとき、2人の背後からガチャガチャという足音が近づいてきた。

「クリム、こんなところにいたのか。随分と探したぞ」

その声に振り向けば、クリムと一緒にセントラルロビーに入ったロボ――ゼロが立っていた。

「あっ、ゼロさん! ちょうど今、ゼロさんのお話をしていたところなんです!」

クリムがゼロに駆け寄っていく一方で、ルナは突然現れたゼロの姿を前にして、吊り目がちの瞳をこれでもかというほどに丸くしながら固まっていた。

「……え? ゼロさん? イエローのボディの……ゼロさん?」

ルナがブツブツと呟いていると、クリムはにこにこ顔で振り向いてルナに声をかけた。

「ルナちゃん、この人がゼロセイバーさんです! 私に戦い方を教えてくれた先生で、これから一緒にコスモリーグに出るんですよ!」

「ってことは……やっぱり、本物のゼロセイバーなの!? 嘘ぉ!?」

「本物ですから、これからいっぱい戦っているところが見られますよ! 良かったですね、ルナちゃ――むぐぅっ!」

はしゃぐクリムの口を、背後から伸びてきたゼロの手が塞ぐ。ゼロのロボアイは吊り上がっており、険しい表情を形作っていた。

「クリム、私の正体は公言しないように言ったはずだ。名前と身分を偽って出場する以上、正体が知られては色々とややこしいことになるのだぞ?」

わざわざブースターを使って浮かび上がってまで口を塞いでいるのだから、余程聞かれたくない話だったのだろう。ようやく解放されたクリムもそれを悟ったようで、目に見えて落ち込んでいた。

「そうでしたね……ごめんなさい。うっかりしていました」

「君のうっかりはいつものことだが……まあいい。これから先、私を紹介するときはゼロとだけ呼ぶようにしなさい」

クリムに念を押したところで、ゼロはルナに向き直ると深々と頭を下げた。

「そういうことなので、私がゼロセイバーだという事実はここだけの話にしていただきたい。口外されてしまっては、私はここにいられなくなってしまうのだ」

「あっ、えっ、えっと……」

ルナはまだ混乱しているのか歯切れが悪い。そんなルナを庇うように、クリムがゼロの前に進み出た。

「ゼロさん、ルナちゃんは恐喝されていた私を助けてくれたんですよ? それだけじゃありません。迷子になった私をここまで連れてきてくれたから、こうしてゼロさんと合流することができたんです。こんなにも優しくて良い人が、ゼロさんの正体をベラベラと喋っちゃうはずがありません! そうですよね、ルナちゃん?」

「もっ、もちろんです! このルナスタシア、たとえ脅されようとも決して口外などしませんのでご安心ください!」

それを聞いたゼロは、心底安堵したようにロボアイの光を穏やかなものに変える。

「ありがとう。まさか会ったばかりの人に、師弟揃って世話になるとは思いも寄らなかった」

ゼロはルナに歩み寄り、右手を差し出しながら言葉を続けた。

「クリムを助けてくれてありがとう。この恩はいつか必ず返す。君が困ったときは、遠慮なく私に相談してくれ」

「い、いいえっ、大したことではありません! むしろあなたのような偉大なロボに直接お会いすることができたのですから、私の方こそ感謝したいくらいです!」

ルナが恐縮しつつも握手に応えると、ゼロは苦笑しながら首を振った。

「そう持ち上げないでくれ。チャンピオンと言っても、それはすでに過去の栄光だ。今ではすっかり旧式となった、時代遅れのポンコツロボなのだから」

「そんな、ご謙遜なさらないでください! あなたの噂は、小さい頃からずっと聞かされてきました! 憧れていた偉大な戦士に、こうしてお目にかかれたことを光栄に思います!」

すっかり興奮した様子のルナは、次いでクリムへと向き直ると、今度は彼女へ右手を差し出してきた。

「あなたのこと、ちょっと誤解していたわ。こんなにも偉大なリーガーに師事しているんだもの。実力を悟られないように、わざと抜けているような行動を取っていたのよね? すっかり騙されちゃったわ」

クリムは不思議そうに小首を傾げていたが、ルナはそんなクリムの手を取ると、強く握りながら微笑んだ。

「対戦するのが楽しみね。お互い手加減なしで、全力を尽くしましょうね!」

ルナの興奮が伝わったのか、クリムも精一杯の力で握り返しながら頷いた。

「もちろんです! 頑張りましょうね、ルナちゃん!」

傍から見れば、ライバル同士の友情が芽生えた瞬間といったところだろう。しかし、見つめ合う2人を引き離すように割って入ったのは、他でもないゼロだった。

「盛り上がっているところ悪いが……クリム。もしかすると我々は、今期のリーグに参加できなくなるかもしれないぞ?」

~ つづく ~