コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 2 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

「うえーん、うえーん! 困ったじゃん! 悲しいじゃーん!」

「ど、どうしたんですか!? 何で泣いてるんですか!?」

突然のことに動揺したクリムだが、オロオロしながらも彼らの肩を揺さぶりながら泣く理由を尋ねる。すると兄弟は、クリムに向かって口々に訴え始めた。

「おいらたち、病気のおっかさんを助けるためにコスモリーグに来たさぁ!」

「でも貧乏なおいらたちにはエントリー代が払えないじゃん! 困ったじゃーん!」

「おっかさんの病気はコスモピースじゃないと治せないさぁ! リーグに出られなかったら、おっかさんは…………うえーん! うええーん!」

「ねーちゃんにお願いじゃん! おっかさんを助けると思って、ねーちゃんが持っている金をおいらたちにおくれじゃーん!」

兄弟の事情を聞き、クリムは沈痛な面持ちになった。

「そうだったんですね……それは大変です。でも……」

スカートのポケットに右手を添えながら、クリムは視線を彷徨わせる。そうして思い悩んだ末に、苦しげに呟いた。

「助けたいのは山々です……。でもこのお金は、里のみんなが頑張ってかき集めてくれたものなんです。1人分のエントリーに使うのがやっとなので、あげられません」

「ええ!? 人助けじゃん!? くれたっていいじゃーん!」

駄々をこねる兄弟に、クリムはひたすら頭を下げ続ける。しかししばらくして、今度はパッと顔を上げると思いついたようにポンと手を叩いた。

「いいことを思いつきました! 私の先生に相談すれば、なんとかしてくれるかもしれません!」

クリムの表情が輝きを取り戻すが、その一方で、兄弟はギクリと身を震わせる。

「せ……先生? 先生ってことは、やっぱり大人さぁ?」

「はい! 色んなことを知っていて、すっごく頼りになる人です! だからあなたたちの事情を話せば、優しい先生ならきっと力になってくれるはずです!」

クリムが話している間にも、兄弟のロボアイは不自然なまでに明滅している。これは焦りや混乱などに陥ったロボが示す典型的な反応だが、それを知らないクリムはにこにことしながら兄弟の手を取った。

「そうと決まれば、今すぐ受付に行きましょう! 先生が待っています!」

そう言って歩き出そうとしたところで、兄弟は慌てた様子でクリムの手を振り払った。

「だだだっ、そんなことしなくていいじゃーん!」

「そ、そうさぁ! それに、ねーちゃんには先生がいるさぁ! ここでその金をおいらたちに渡して、ねーちゃんは後で先生から金をもらえばいいだけさぁ!」

「え……でも、このお金はちょっと特別で……できれば手放したくないです」

「あ~もう、ゴチャゴチャとうるさいじゃん!」

「いいからよこせって言ってるさぁ!」

煮え切らないクリムに対して、兄弟はそれまでの態度を一変させて飛びかかってきた。顔の前で拳を振り上げられ、驚いたクリムは咄嗟に両腕を盾にしながら顔を背け、きつく目をつむる。
だが、来るはずの衝撃は一向に訪れる気配がない。クリムはそっとまぶたを開いて様子を窺った。するとすぐに兄弟の「ぎゃっ!」という声が聞こえ、黒く長い尻尾のようなものが視界に入った。

「痛ってぇ! いきなり何するさぁ!?」

「それはこっちの台詞よ! 女の子を恐喝するなんて、コスモリーガーの風上にも置けないやつらね!」

勝ち気な声がしたことで、クリムは尻尾だと思ったものが、目の前にいる見知らぬ少女の髪であるということにようやく気付いた。
一体、何がどうなったのか。自分の置かれている状況がわからずにとまどっているクリムに、少女の吊り目がちな紫の瞳が向けられる。

「大丈夫? 怪我はないわね?」

鋭さを宿した目つきは、シャープな顔立ちと相まってまるで切れ味の良い刃のようだ。クリムと同じヒュムの少女なのに、その堂々とした佇まいからはか弱さなど微塵も感じられない。ともすれば、そこいらにいる男よりもずっと凄みと迫力がありそうで、クリムはすっかり気圧されて黙ったまま頷くしかなかった。
少女は頷き返すと再び前を向く。動きにあわせて、艶のある漆黒のサイドテールが揺れていた。

「しっかりしなさい。あなた、こいつらに騙されてるわよ?」

「……え? どういうことですか?」

「こいつらデルビン族は、せこい手を使うことで有名な種族なのよ? 知らないの?」

予想もしなかったことを告げられ、クリムは瞬きを繰り返しながらポカンとしている。

「え? えっ、でも……あんなに泣いていたんですよ?」

クリムはにわかには信じられないようだったが、少女は呆れた様子でため息をつくとさらに言葉を続けた。

「大体ねぇ、ロボはヒュムよりも頑丈だから滅多なことでは病気にならないのよ? 動物型ならまだしも、こいつらみたいな機械型じゃあまず有り得ないわ」

少女が話すごとに、デルビンの兄弟はロボアイを明滅させながら目に見えて落ち着きをなくしていく。その様子を見て、クリムもようやく少女の言うことが事実だと理解したようで冷や汗を流していた。

「ってことは……私、もしかして……」

「こいつらの嘘に、まんまと騙されていたってわけ。まったく……こんなにもわかりやすくたかられているってのに、のんきな子ね」

少女はもう一度ため息をついて、今度は兄弟を睨みつけた。

「大方、自分よりも弱そうなやつを狙っていたんでしょ? 噂に聞いた通りとはいえ、ここまでせこいと見ているこっちが恥ずかしくなるわ」

「何だとぅ!? 女のくせに生意気じゃん!」

「思い知らせてやるさぁ!」

兄弟が同時に飛びかかってくる。少女も背負っていた大剣の柄に手をかけて応戦の構えを取ったそのとき、双方の間へ割って入るかのように青白い光が伸びた。光はそのまま空間を貫いて、付近にあったゴミ箱の上に置かれていたジュースの缶に命中した。
空中を舞う缶。そのど真ん中には焦げ付いた風穴が開いており、クルクルと回転しながら地面へと落下する。

「……速射性能、照準精度ともに問題なし。狙い通り」

淡々とした声がして、クリムを始めとする全員が振り返る。
真っ先に目に入ったのは、青白いスパークを発している銃口だ。その向こう側でこちらを見つめているのは、清水のように透き通った水色の瞳。身の丈ほどはあろうかという巨大なレールガンを構えていたのは、白色のボディスーツに身を包んだ少女だった。
少女は構えを解くと、レールガンをそっと撫でて射撃モードからスリープモードへと移行させる。銃身がガシャンと音を立てながら縮んでいき、少女はコンパクトな形状へと変化したそれを腰のホルダーに固定してからクリムたちに向き直る。少女の動きにあわせて、三つ編みに結ばれた水色の長髪が揺れていた。

「リーグ戦以外での戦闘行為は禁止されているはず。これ以上続けるつもりなら、コスモリーグの秩序を乱す者として運営に通報するけど、いいの?」

口調は淡々としており、無表情と相まって非常に感情が読み取りにくいのだが、それがかえって得体の知れない迫力を醸し出している。少女の迫力に恐れをなしたのか、兄弟は「ひぃ~!」と悲鳴を上げると地面を転がりながら一目散に逃げていった。

~ つづく ~