コズミックブレイク2
シャイニングスターメモリーズ ≪ 1 ≫

原作:サイバーステップ
小説:青葉あおい

暗く、静かな宇宙の彼方から、強く美しい輝きを放つ結晶が飛来してきた。1つ、2つと、流星のように光の尾を引きながら星々へ降り注いでいくのを、深紅の丸い瞳がシップの強化ガラス越しにジッと眺めている。
シップの内側にある物見台には、黄金色の長い髪を持つ少女が座っていた。少女は興奮した面持ちで振り返ると、物見台の柵から身を乗り出しながら下に向かって声をかけた。
 
「ゼロさん、見ましたか!? あれがコスモピースですよね? 私たち、本当にコズミックネイブルに来たんですね!」

少女の視線の先には、鮮やかなイエローのボディにダークグリーンの外套を纏ったロボがいた。ゼロと呼ばれたそのロボは、操舵室のモニターに向けていた視線を少女へと移す。

「もうすぐセントラルロビーに到着する頃だ。参加登録が済めば、君もいよいよコスモリーガーの仲間入りになる。クリム、覚悟はいいな?」

「はい! 一生懸命頑張ります!」

にこやかに頷く少女の本名はクリムローゼだが、普段は愛称のクリムで呼ばれている。その人懐っこい笑顔からは戦士の風格など微塵も感じられないが、彼女もまたコスモピースを求めてこの宙域――コズミックネイブルを訪れた1人だ。少女らしい華奢な体に不釣り合いな武装を身につけているのが何よりの証拠である。
コスモピースは、宇宙の彼方からコズミックネイブルに飛来してくる結晶の呼称だ。その起源は定かではなく、どこから、何のために飛来してくるのかもわからないが、1つだけはっきりしていることがある。コスモピースには、その量や質に応じて所有者の願いを叶える力があるのだ。
この事実が判明した当時は、コスモピースの奪い合いによる紛争が後を絶たなかったという。そんな事態を重く見た各惑星の代表が会談を行った末に、正式なルールに則ったコスモピース争奪戦を行うことが決定された。こうしてコスモリーグと呼ばれる競技連盟が設立されたことで、ピースは紛争という手段ではなく、スポーツライクなバトルによって平和的に譲渡されるようになったのである。
リーグを勝ち進めるだけの実力さえあれば、老若男女や種族の別なく、誰にでも等しくピースを得られる機会がある。その気軽さから、参加人数は右肩上がりに増え続けていた。今やコスモリーグは、全宇宙にその名が知られる一大競技となっていた。

『およそ5分で、目的地へ到着します』

自動航行システムの機械的な音声が操舵室に響き、振り向いたクリムはガラスに張り付かんばかりに顔を近づける。
周囲には大小様々なシップが航行しているが、どのシップも目指す先は同じだ。視界いっぱいに広がる無数の建造物。中央にある4層のコロニーを中心にして、3方向に大小様々なコロニーが散らばっている。浮島が多数連なった形状のコロニー群は、およそ数千人と目されるリーグ参加者――コスモリーガーが集うコスモリーグの総本山、セントラルロビーだ。

「うわぁ、すっごい大きいです! それに、こんなに沢山の建物を一度に目にするなんて初めてです!」

近づくにつれて広大さが増していく。故郷から出たことがなかったクリムはコロニーを目にすること自体が初めてだ。気分が高揚するのは無理もないことで、クリムは結局、シップが中央最下層にある通用口に進入する瞬間まで、頬を紅潮させながらジッとロビーを眺め続けていた。
シップはエアロックを抜けてさらに内部へ入り、金属の壁に囲まれた通路を右へ左へと飛び続ける。やがて通路の先から光が射し、一気に視界が開けた。
クリムが物見台から見下ろすと、そこには見渡す限り一面にシップが停泊していた。一体どれほどの数なのか、多すぎて数えるのが困難なほどだ。

「ここにあるシップって、全部リーガーさんのものなんですか?」

「おそらくはな。しかしこうして見ると、私が現役の頃とは比較にならないほどに人数が増えているな」

「なんだか、一気に緊張してきました……」

クリムが表情を強張らせたそのとき、シップが突然停止した。

「きゃっ!」

クリムがよろめいて尻もちをつく。

「どうした?」

『停止信号です。混雑のため、順番が来るまで上空で待機せよとの通達です』

ゼロがシップのAIに確認を取れば、AIは機械的な声ですぐに状況を説明した。ゼロは顎に手を当てながら考えるそぶりを見せた後、水色に光るロボアイをクリムへと向ける。

「着陸までに時間がかかりそうだ。クリム、先に降りて受付を済ませてきなさい」

「でも、ゼロさんだけを待たせるのは申し訳ないです。私も一緒に待ちます」

「この様子では受付も混み合っているだろうし、早いうちに済ませておくに越したことはない。私はともかく、君が参加できなくなっては意味がないのだからな」

それを聞いたクリムは、渋々といった様子で納得したようだった。

「わかりました……それじゃあ、お先に行ってきますね」

「私もシップを着陸させたらすぐに向かう。そのまま受付で合流しよう」

「はい。よろしくお願いします」

物見台から飛び降り、クリムは軽やかに着地すると操舵室を出た。短い通路を小走りで駆けた先はドーナツ状の通路になっており、柱となる部分には二重ロックがかけられた扉がある。クリムは壁に設置されているパネルを操作してロックを解除すると、シップの出入り口となっているその扉から空中に身を躍らせた。
落下していく体。全身にかかる風圧に体を預けながら、クリムは脚部を地面の方角へ向けて気合いを入れた。

「えいっ!」

脚部のブースターが点火し、クリムは空中でくるりと宙返りをする。姿勢が制御された体は重力に反して浮かび上がり、そのままシップに背を向けて飛び立っていく。

「それにしても、受付はどこにあるんでしょうか? ……あっ!」

受付を探して辺りを窺っていたそのとき、クリムはエレベーターに向かって歩いている10体ほどのロボの集団を見つけた。

「あの人たちもリーガーさんなら、きっと受付に向かいますよね! ついていきましょう!」

グッドアイデアだと言わんばかりに手を叩いて下降すると、クリムはロボの集団に続いてエレベーターに乗り込んだ。すぐに扉が閉まり、上昇を始める。
四方がガラス張りのエレベーターからロビー内部の風景を眺めれば、階層によって内部の構造や建物が様変わりするのが見て取れた。最下層のドックはシップや機械ばかりだったが、1つ上の階層には高いビルや広大な運動場といった街並みを見て取ることができ、その向こう側には草原や脇を流れる小川といった穏やかな空間も広がっていた。
もう1つ上の階層は、それまでとは異なって四方を壁に囲まれたために内装を眺めることはできなかった。クリムは残念そうだったが、最上段に辿り着いた途端、そこに広がる素晴らしい風景に見惚れて感嘆混じりのため息を漏らした。
上空に広がるのは、星が瞬く宇宙空間。足元では赤い煉瓦造りの道が伸び、石造りのアーチが整然と並びながら来訪者を出迎えている。周囲には青々とした芝生と豊かな葉を茂らせる木々が生えており、所々にベンチや自動販売機といったものが設置されている。綺麗に整備された、落ち着いた趣のある広場だった。

「うわぁ、すごく素敵な広場です!」

すっかり目を奪われてしまったクリムは、先にエレベーターを降りたロボたちの後を追うのも忘れて風景を堪能する。やがてハッと我に返った頃には、付近には人っ子1人見当たらなくなっていた。

「どっ、どうしましょう! どうやって受付に行けばいいんですか!?」

慌てて道なりに歩き出したが、前後左右がシンメトリーになるようデザインされている広場では、道を変えたところでまた同じ場所に戻ってしまったかのように錯覚してしまう。不安になっては引き返し、別の道に入ってはまた引き返す。そうやっているうちに、クリムは自分がどの方角から来たのかすらもわからなくなってしまった。

「どうしましょう……完全に迷子です……」

クリムは仕方なしに近くのベンチに腰を下ろす。歩き疲れも相まって、すっかりしょげ返っていた。
すると突然、傍らにあった木の後ろから2つの影が飛び出してきた。

「おい、そこのねーちゃん!」

驚いたクリムが「きゃっ!」と悲鳴を漏らしながら振り向けば、背後には2体の小型ロボがいた。ロボたちはオレンジ色の丸い体にくっついている短い手足を精一杯動かしながらピョンピョン跳びはねている。全長はクリムの膝にやっと届くほどしかなく、その大半を占めるボディの中央では白いモノアイが煌々と輝いていた。

「痛い目に遭いたくなけりゃ、手持ちの金と装備一式を置いてくじゃん!」

「抵抗するなら容赦しないさぁ!」

ロボたちは短い腕をブンブンと振り回してクリムを威嚇するが、クリムは弾かれたようにベンチから立ち上がると、瞳をキラキラと輝かせながら紅潮した頬に両手を添えた。

「わあ~っ! すっごくかわいいロボさんたちです~!」

すっかり興奮した面持ちになり、クリムはロボたちの前にしゃがみ込むとそれぞれの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「まだお子様ですか? こんなに可愛いロボさんに会ったのは初めてですー!」

「おっ、お子様ぁ!?」

「お子様って何さぁ!?」

ロボたちはクリムの反応に憤慨したらしく、身をよじってその手から逃れると彼女をビシッと指差した。

「おいらたちは、誇り高きデルビン族期待の星! 兄のデルタじゃん!」

「弟のデルジさぁ! どうだ、驚いたさぁ!」

名乗りを上げた兄弟は得意そうにふんぞり返るが、クリムはそれを微笑ましそうに眺めながら口を開いた。

「デルタちゃんにデルジちゃんですね! 名前も可愛らしいです!」

この反応に、兄弟は脱力のあまりその場にすっ転んでしまった。

「あ、兄貴ぃ……こいつ全然ビビってないさぁ……」

「むむむ……こうなったら、作戦変更じゃん!」

言うが早いか、地面に突っ伏した兄弟は手足をばたつかせながら泣き出した。

~ つづく ~